第4回 ヒラシュモクザメに関する奇想天外な仮説

 ずばり言ってしまうと、ヒラシュモクザメは体を横に傾けて泳ぐことによって、その大きな背びれを「第三の胸びれ」として使っているんじゃないかというのが私の仮説である。といってもまだ説明が不十分の気がするから、順を追って説明しよう。

 サメの胸びれの役割は、飛行機の翼のように揚力を発生させることである。

 軟骨魚類(サメ、エイの仲間)と硬骨魚類(コイ、ウナギ、サンマなどのいわゆる普通の魚)とは、分類学的にヒトとハトほども離れた、ほとんど別の生物であると前回述べた。両者は基本的な体の作りが異なっており、一例を挙げれば、サメはコイやウナギと違って浮き袋をもっていない。その代わりにサメは肝臓が大きく、肝臓に蓄積された油脂によってある程度の浮力を得ている。

 けれども油脂から得られる浮力は限られたものなので、サメはじっとしていると海の底に沈んでしまう。そこで多くのサメは胸びれをぴんと左右に張って泳ぎ、胸びれから揚力を発生させることによって、体の沈下を防いでいる。

 いま、まっすぐな姿勢(つまり横倒しになっていない姿勢)で泳いでいるヒラシュモクザメを真正面から見ていると想像しよう。背中には1本の大きな背びれが立ち、胸部からは左右それぞれにぴんと胸びれが伸び、その2本の胸びれから揚力が発生している。

 この状態で、ヒラシュモクザメの体を右に(あるいは左に)60度傾ける。するとどうだろう、背びれは機能上、胸びれと区別がつかなくなり、背びれからも揚力が発生するようになる。なるほどこの状態では、胸びれも本来の位置からずれてしまうので、胸びれに発生する揚力は減ってしまうかもしれない。けれども「3本の胸びれ」から得られるトータルの揚力は、まっすぐな姿勢のときの2本の胸びれ由来の揚力を上回るのではないかと私は予想している。

 トータルの揚力が上回るということは、ヒラシュモクザメはそれだけ楽をできるということである。沈まないようにエネルギーを使って泳ぎ続ける必要性から、少し解放されるということである。これが私の「第三の胸びれ」仮説だ。

「第三の胸びれ」仮説のイメージ。(提供:渡辺佑基)
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