第4回 ヒラシュモクザメに関する奇想天外な仮説

ヒラシュモクザメ。巨大な背びれに注目。
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 当連載の前々回、グレートバリアリーフ(豪)で調査したヒラシュモクザメから面白いデータが取れたと述べたが、まだ詳細を記していなかったので、今回はそれについて書きたい。実際のところ、ヒラシュモクザメからは面白いどころか、奇想天外とさえ言ってもいいデータが取れ、それに基づいて奇想天外な仮説(それでいて十分にあり得る仮説)が生まれた。研究者としてはこのような話は、論文として発表できるまで内緒にしておくのが戦略上正しいのだろうけれど、待ちきれないからいま言ってしまう。とはいえまだ未検証の1つの仮説に過ぎないということを忘れないでいただきたい。

 取れたばかりのヒラシュモクザメの遊泳行動データ(深度、遊泳スピード、加速度など)をパソコンに映し出したとき、私は我が目を疑った。いままでに見てきたどんな魚類とも違う、特異的な、あるいは異常ともいえる遊泳パターンが見て取れたからである。

 まず、深度について。サメはグレートバリアリーフの比較的浅い海の中(最深部で30~40m程度)をひっきりなしに潜ったり浮上したりしていた。とはいえこれは特段驚きのデータではない。私の経験では、多くの魚が似たような上下移動を見せる。

 次に遊泳スピードについて。ヒラシュモクザメの平均的な遊泳スピードは時速3キロほどであった。これは体長3mほどの魚としてはごく普通の値である。ホホジロザメやマグロ類など、体温をまわりの水温よりも高く保つ特殊な魚に限り、これよりも2~3倍速い速度で泳ぐことは当連載の前回に述べた通りだ。

 問題は加速度である。加速度というのはすこぶる便利なデータであり、動物の動きに関する、いろいろな情報を含んでいる。たとえばサメの尾ひれの左右の振りを読み取ることができるので、サメが遊泳に費やした努力量がわかる。遊泳中のサメの姿勢(体が上を向いているか下を向いているか、あるいは右に傾いているか左に傾いているか)を読み取ることもできる。

 ヒラシュモクザメの遊泳中の姿勢は常軌を逸していた。体全体を右に60度ほど傾けた横倒しの状態で5~6分間泳ぎ、その後、今度はくるりと体を反対方向にまわし、左に60度ほど傾けて5~6分泳ぎ、それが終わると、また右に傾いた姿勢に戻る――そんな奇怪なスイッチングを延々繰り返していた。

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