第3回 マグロとホホジロザメに共通する進化の秘密を発見!

 だとすれば、速い巡航速度をもつ体温の高い魚は、ずっと広範囲を回遊できるはずだ。そう考えてみれば、体温の高いマグロ類や一部のサメは、サンマとは比べ物にならないほどダイナミックな回遊をしているように、少なくとも感覚的には思えた。クロマグロは1年のうちに日本沿岸から広大な太平洋を横断し、カリフォルニアの沖まで行ったりするし、ネズミザメは夏にアラスカの湾内に集まり、冬はハワイの近くの海にまで南下したりする。

 これはいけるかもしれないと私の胸は高鳴った。本当に体温の高い魚が、そうでない魚に比べてより広い範囲を回遊するかどうか、網羅的に調べてみればいい。幸いにして近年、様々な魚に記録計(あるいは発信器)が取り付けられ、回遊の軌跡が論文として公表されている。そこで早速、それらのデータを集められるだけ集め、1年間の回遊の軌跡の端から端までの距離を「グーグルアース」で測定してみた(図2)。

図2:海洋動物の年間の最大回遊距離。体温の高い魚はそうでない魚に比べて回遊距離が長い。また、体温の高い魚の回遊距離は海生哺乳類(クジラ、アザラシなど)やペンギンのそれに近い。(提供:渡辺佑基)

 結果ははっきりと現れた。体温の高い魚は、そうでない魚に比べて回遊距離が長かった。同じ体重で比較すると、体温の高い魚はそうでない魚に比べて2.5倍も回遊距離が長かった。驚いたことに、遊泳スピードと同様、体温の高い魚の回遊距離は恒温動物(ペンギン、アザラシ、クジラなど)のそれに近かった。

 さらに、回遊距離のデータと遊泳スピードのデータとを合わせてみると、速いスピードで巡航する魚ほど長距離を回遊する傾向があることがわかった(図3)。この結果は、魚の回遊距離が巡航速度によって制限されているという私のアイデアをはっきりと裏付けていた。

図3:遊泳スピードと年間の最大回遊距離の関係。1つのプロットが1つの種を表す。速く泳ぐ魚ほど長距離を回遊する傾向がある。

 ここに至って、マグロ類やホホジロザメにとっての高い体温のメリットが明らかになった。体温の高い魚は持久系の運動を支える赤筋の出力が高いために、普通の魚に比べて速いスピードで巡航することができる。速い巡航スピードは、普通の魚には不可能な地球規模の大回遊を可能にし、そのため体温の高い魚は季節的、局所的な環境変化に対してより柔軟に対応することができる。エサの豊富な場所、産卵に適した場所などを、季節に合わせて広大な海の中から自由に選択することができる。そのようなメリットが、多くのエネルギーを消費するというデメリットを上回ったからこそ、体温の高い魚という不思議なグループが進化したのだと考えられた。

 それからもう1つ。今回の研究では、体温の高い魚は遊泳スピードにおいても、年間の回遊距離においても、普通の魚のレベルを超えており、むしろ海生哺乳類(クジラ、アザラシなど)や海鳥(ペンギンなど)といった恒温動物に近いことがわかった。つまり魚類、鳥類、哺乳類などの分類群の枠を越えて、体温というシンプルな値が地球上の動物の動きを説明するという、驚くべき自然の法則が明らかになった。

つづく

『ナショナル ジオグラフィック日本版』2015年5月号

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