第3回 マグロとホホジロザメに共通する進化の秘密を発見!

 結果は予想以上であった。まず、魚の巡航時の遊泳スピードは、大きな魚ほど速い傾向にあった。巨大なジンベエザメは小さなフナに比べると、尾びれを1回左右に振るだけでずっと長距離を進むので、これはさほど驚くべき結果ではない。

 大事なのはその次だ。同じ大きさの魚で比較すると(つまり回帰直線の切片を比べると)、体温の高い魚はそうでない魚に比べて、じつに2.7倍も速い速度で巡航することがわかった。高速遊泳仮説の正しさを証明する初めての結果である。驚いたことに、体温の高い魚の巡航速度は、恒温動物である海鳥(ペンギン、ウミガラスなど)や海生哺乳類(クジラ、アザラシなど)のそれに近かった(図1)。

図1:平均遊泳スピードと体重の関係。1つのプロットが1つの種を表す。大きな動物ほど速く泳ぐ傾向があるが、同じ体重で比較すると、体温の高い魚はそうでない魚よりも速い。また、体温の高い魚の遊泳スピードは、海鳥(ペンギン、ウミガラスなど)や海生哺乳類(クジラ、アザラシなど)のそれに近い。(提供:渡辺佑基)

 体温の高い魚は速く泳ぐ――ここまではよし。でももう一歩、考えを進めてみよう。速い遊泳スピードはどのような形で、生存上のメリットとしてはたらくのだろう。そしてどうしたらそれを科学的なデータとして証明できるだろう。難しい問題である。ああでもない、こうでもないと首を捻ったが、よいアイデアはてんで浮かばず、私はこの段階でずいぶんと長く立ち止まってしまった。

 ところが、ある日ふと、魚の遊泳スピードはもしかしたら、回遊のパターンに関わるのではないかと思った。

 魚の多くは1年間の周期で回遊している。たとえば日本近海のサンマは、夏は北海道の沖まで北上し、冬は四国、九州あたりまで南下してくる。それは季節的な水温の変化や局所的なエサの増減などの影響を、自らが移動することよって和らげるためである。

 でもひょっとしたら、サンマはもっと広い範囲を回遊したいのかもしれない。回遊範囲が広がれば、季節的、局所的な環境の変化に対してより柔軟に対応でき、生存上のメリットは大きいだろう。たとえばエサの豊富な、遠く離れた複数の海域を順番に訪れることもできる。それにもかかわらず、サンマの回遊距離が日本列島の長さほどに限られているのは、サンマは体温の高くない普通の魚であり、遊泳スピードが遅いので、物理的にそこまでしか行けないからではないか。

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