第2回 オーストラリアのサメ調査は1勝2敗

 オーストラリアの北東部、グレート・バリア・リーフと呼ばれるサンゴ礁の海域でサメの生態を調査してきたので、今回はその報告をさせていただこう。

 私は海外のいろいろな大学や研究所と共同研究をしているが、今回の共同研究の相手は一風変わっていて、Ocearch(オーサーチ)という変な名前の(失礼。海を表すOceanと調査を示すResearchを組み合わせた立派な造語です)、米国の非営利団体であった。

 Ocearchの代表のクリス・フィッシャーさんは、20代で富を築いた凄腕のビジネス・パーソンだ。齢30を過ぎてから一念発起し、これからは海洋生物、特に自分の大好きなサメの研究や保全に人生を捧げるのだと心に決め、この団体を立ち上げたらしい。スポンサーを募って大きな調査船を購入し、船員を雇って世界中の海を訪れ、いろいろな種類のサメに発信機を取り付けて生息域を調べている。いかにもアメリカらしい、夢のある話だと思う。

 私はビジネス方面にはひどく疎いので、フィッシャーさんの活動は間近で見ていて面白かった。発信機を取り付けたサメ1頭1頭に親しみやすい名前を付け、フェイスブックなどのSNSを駆使して、リアルタイムで位置情報を公開している。それだけでなく、スポンサーへの還元や社会貢献を大事にしていて、寄港するたびにスポンサーの関係者を招いて食事会を開いたり、地元の学校を訪れて子供たちに講演をしたりしていた。へえー、こういう研究のスタイルもあるのだなと、少ない研究費にぴいぴいしている私は感心しきりだった。

 さて、今回の調査の概要はこうである。Ocearchの調査船を使ってサメを釣り上げ、計測機器とビデオカメラを取り付けて放流する。数日後に機器がタイマーで切り離され、海面に浮上してくるので、電波を頼りに探し出して回収する。そしてデータをダウンロードすれば、サメの未知なる生態を明らかにすることができる。ちなみにこの「切り離し回収」の方法は、私が大学院生の頃に確立させたものである(ちょっと自慢)。

Ocearchの調査船。
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 調査の対象をイタチザメとかオグロメジロザメとか特定せずに、ただ単にサメとしか言えないところが魚類の調査らしく、面白いところだ。普通、動物の生態調査では、あらかじめ種類を特定して実施する。ツキノワグマの調査のために山に入ったけれど、やっぱりタヌキを調査して帰ってきたという人は聞いたことがない。

 けれども魚類の場合だけは、すべてが釣果次第である。どんな魚が釣れるかは、ある程度予想はできても、決して特定はできないから、やってみてのお楽しみ。今回の調査でも、オオメジロザメが釣れて欲しいとか、イタチザメはそれほどでもないかなとか、いろいろ考えてはいたけれど、結局は釣れてから、その種に機器をつけるかどうか判断するしかなかった。