環境汚染でホッキョクグマのペニス折れやすく

研究者がPCB濃度と陰茎骨密度の関連を示唆

2015.02.04
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カナダ、エルズミア島のホッキョクグマ。(Photograph by Paul Nicklen, National Geographic Creative)

 過去に猛威を振るった毒性物質PCBが、今も北極周辺で影響を及ぼし、ホッキョクグマのペニスの骨をもろくしていると、デンマークの研究者が学術誌『Environmental Research』2015年2月号に発表した。

 PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、かつて変圧器から塗料まであらゆるものに使用され、世界中に無造作にばらまかれてきた化学物質。生物が食べると体内の脂肪組織に蓄積され、ガンの原因になるなど深刻な健康障害を引き起こす。日本では1970年代に使用が禁止されている。

 PCBの影響を大きく受けるのは、食物連鎖の上位にいる動物だ。魚1匹に含まれるPCBはごく微量だが、アザラシは毎日たくさんの魚を食べ、そのアザラシはホッキョクグマに捕食される。最終的に、大型動物の体内には大量の汚染物質が蓄積される。「こうした化学物質の場合、毒性がすぐに現れるわけではなく、非常に見えにくいかたちで影響してきます」と、今回の研究で主執筆者を務めた生物学者クリスチャン・ソンネは言う。

繁殖能力への影響は

 ソンネらは狩猟民の協力を得て、カナダとグリーンランド北部でホッキョクグマの8つの亜集団から陰茎骨を収集、それぞれの骨密度を測定した。併せて、同じ亜集団に属する別の個体の脂肪組織を分析し、PCB濃度の測定も行った。

 その結果、PCB濃度が最も高い集団では陰茎骨の骨密度が最も低く、骨が折れやすい状態にあることがわかった。他の骨も当然もろくなってはいるが、陰茎骨は非常に小さいため、骨密度低下のダメージが特に大きく出る。陰茎骨が折れやすくなれば、繁殖能力、ひいてはホッキョクグマの個体数に影響することも考えられる。

「個体数と汚染物質の関連性を明らかにするのはきわめて困難です」と、カナダ・アルバータ大学教授でホッキョクグマの保護団体「ポーラーベアーズ・インターナショナル」の科学アドバイザーを務めるアンドリュー・デロシェールは語る。

 彼は今回の研究には関わっていないものの、PCBの他にも、臭素系難燃剤、フッ素化合物、DDTといった数百種類もの化学物質が、北極の動物に影響を与えていることがわかっているという。それぞれがどのような影響を及ぼすかを正確に知ることは不可能だ。「この研究は、汚染問題をさらに深く追求する必要性があると教えてくれています」

 デロシェールは水銀などの重金属や気候変動によるストレスも、ホッキョクグマに影響を与えていると指摘する。氷が解ければホッキョクグマはエサの少ない陸上で過ごさなければならなくなり、体に溜め込んだ脂肪を消費してしまう。「現代を生きるホッキョクグマは数々の苦難にさらされています。この研究はそのうちの一例に過ぎません」

 なにより恐ろしいのは、これが氷山の一角にすぎないかもしれないことだとソンヌは言う。「われわれは決して、本当に衰弱したホッキョクグマを目にすることはありません。そんな状態であれば海で溺れるか、他の個体やセイウチに食べられてしまうからです。ですからこの問題は、われわれが考えているよりずっと深刻な可能性もあるのです」

文=Jason Bittel/訳=北村京子

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