第17回 金縛り対策-特に明け方の二度寝にご用心

 金縛りではレム睡眠中の夢を幻覚と取り違えることもある。枕元に誰か居る、布団の上に何かが乗っている、敵方の忍者の気配を感じる、などの金縛り中の奇妙な体験はレム睡眠によるもので、オカルト現象ではないのでご安心を。

 さて、この金縛りを寝入りばなや、時には昼間にも(!)繰り返し経験する人がいる。ナルコレプシーという睡眠障害の患者さんである。日中活動している時でも突然レム睡眠に入ってしまうため、眠気と一緒に脱力が生じる。電車内で絶妙なバランス感覚でうたた寝をする寝不足のサラリーマンと異なり、眠気に加えて脱力があるためドターンと床に転倒してしまうこともある。ナルコレプシーはオレキシンという覚醒を支えるホルモンが不足すると発症するが、昼間にレム睡眠が突然出現する詳しいメカニズムは分かっていない。

 不思議なことに、笑ったり、怒ったり感情が高ぶることが脱力発作の引き金になる。私が研修医でお世話になった指導医は大阪出身であったが、「出入りの時に興奮して脱力してしまい親分にどやされてしまった”その筋”のナルコレプシー患者さん」を担当したことがあると教えてくれた。職業柄、「実にまずい」と懇願されて治療したものの、無事に出入りに参加できるようになってもなぁーと少し複雑な心境だったそうだ。有名人では麻雀放浪記で有名な色川武大(阿佐田哲也)氏がナルコレプシーを患っていたのは広く知られている。麻雀中に寝込んでしまうことも多く、特に高い手をツモった時に脱力してしまったとか。これも実に困る。

 さて、ライバルの佐助に告げ口されて失態がばれてしまった才蔵の一件の顛末である。藩医の診断により、連日の緊張とストレスによる浅睡、睡眠不足による明け方の居眠りで避け難く生じた金縛りであるとされ、お咎めなしと相成った。また、聡明な幸村の御沙汰により人員増強によって一人当たりの夜番の頻度を減らし、ストレス発散のために忍術競技大会などレクリエーションを催し、早朝覚醒の原因となる寝酒は禁とし、過労にならぬように労務管理を徹底するようになってから同様の事例は起こらなくなったという(全く史実に基づいておりません)。

つづく

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三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。