鍵はきっといつも通り空いているだろうし、今日訪ねていくことは、数日前に、電話で告げてあります。

 デイビッドは「家主に会うところまで見届けるよ」と心配してくれましたが、「ここまでくればもう大丈夫です。なんならテントだってありますから」と冗談を言いながら、ぼくは荷物を下ろし、お礼を告げて別れました。

 走り去っていく車を見送ったあと、ぼくはリュックを背負い、家の方に向き直りました。

 すると、グレッグの家のすぐ脇に、大きな花が咲いていて、おもわず目を奪われてしまいました。

 背よりも高い葉の茂みから、長さが30センチもあるラッパみたいな白い花が、帰ってきたぼくを祝福してくれているかのように、いくつもぶらさがっていたのです。

 <こんなところに花があったなんて知らなかった……初めて来たときは、まだつぼみもつけていなかったんだろうな……>

 花は咲いてはじめて、その存在を人に知らしめる。

 ぼくもいつか、花を咲かせたいと思う。

 人がふと立ち止まり、この森と湖の世界について、何かを感じてくれるような花を。

 木の階段を上り、ドアの前に立つと、足音で気がついたのか、すぐ内側に、なつかしい細身の家主が立っていて、笑顔で出迎えてくれました。

「やあ、おかえり! 元気そうだね!」

「やあ、グレッグ! ひさしぶり!」

 ぼくも笑顔で返事をして、差し出された手をとりました。

 再会の固い握手を交わすと、グレッグは、にやりとして言いました。

「で……どうだった? きみのスピリチュアル・クエストは?」

森をゆく、オオカミの群れ。狩りに出かけるのか、一直線に並んで、凍った湖の上を歩いていた。(写真クリックで拡大)

おわり

大竹英洋

大竹英洋(おおたけ ひでひろ)

1975年生まれ。写真家。一橋大学社会学部卒業。1999年に米国のミネソタ州を訪れて以降、北アメリカ大陸北部に広がる湖水地方「ノースウッズ」の森に魅せられ、野生動物や人々の暮らしを撮り続けている。主な著書に『ノースウッズの森で』(「たくさんのふしぎ傑作集」)、『春をさがして カヌーの旅』(「たくさんのふしぎ」2006年4月号)、『もりのどうぶつ』(「こどものとも 0.1.2.」2009年12月号)(以上、すべて福音館書店)などがある。また、2011年3月NHK BSの自然ドキュメンタリー番組「ワイルドライフ カナダ ノースウッズ バイソン群れる原生林を行く」に案内人として出演。近著は「森のおく 湖のほとり ノースウッズを旅して」(月刊 たくさんのふしぎ 2012年 09月号)
本人によるブログは「hidehiro otake photography」

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