最終回 再会
8月23日。とうとうイリーの町を離れる日がやってきました。
ノースカントリー・ロッジのトムやキャロルには、朝のうちに挨拶にいき、午後になって、ジュディやハイジ、そしてジムとも、それぞれに大きなハグをして、別れを告げました。
「きっとまた戻ってくる」と心に決めていたので、さみしいという感情は、とくに湧き上がってきませんでした。
車は森の中を進み、イリーの町を抜けてしばらくいくと、ダルースへと続く、まっすぐなハイウェイをひた走りました。
運転してくれているのは、レイヴンウッド・スタジオの増築を設計したデイビッド・サルメラでした。
ダルースを拠点に活動している著名な建築家で、ちょうどジムに会いにきた帰りと予定が重なったので、乗せてもらうことができたのです。
車中では、デイビッドに尋ねられるままに、今回の旅の話をしました。
もの静かで、几帳面そうなデイビッドは、ぼくの話を聞きながら、幾度となく、丁寧に相づちを打ってくれました。
が、ぼくの方は、いくら話をしても、うまく伝えきれないもどかしさを感じ続けていました。
オオカミの夢を見て、ジムに弟子入りを志願し、返事が来なかったので、会いにきた。
イリーまでのバスがないので、ダルースのホステルのオーナーに送ってもらった。
カヤックを購入して、8日間、ウィルダネス保護区を旅して、ムース湖に辿り着いた。
湖畔にあったフィッシング・ロッジの人々の助けで、ジムに会うことができた。
弟子入りは断られてしまったけれど、帰国までクリフハウスに住まわせてもらい、撮影を始めることになった。
ウィル・スティーガーにも紹介され、ときおりホームステッドに泊まりながら、巨大な城の建設を手伝った……。
要約してしまえば、つまりはそういうことに違いないのですが……事実を並べたところで、ぼくが体験してきたことの、いったい何が伝わるというのでしょう。