大理石の入り口の梁に座り、アンフィポリスの墓を守る2頭のスフィンクス。(Photograph Courtesy of Greek Ministry of Culture)

 ギリシャ北部の巨大な墓で発見された女性の遺骨は、60歳の頃に処刑されたアレクサンドロス大王の母、オリンピアスのものではないかとメディアで報じられ、ブロガーたちが色めき立っている。

 ギリシャの文化・スポーツ省は先週、古代都市アンフィポリスにあるカスタ・ヒルの墳墓で5人の遺骨が発見されたと発表した。精巧な細工の施された墳墓がカスタ・ヒルの地中から発掘され、その中の埋葬室から遺骨が見つかった。発掘調査にあたっていた考古学者らは、この墓が紀元前4世紀の終わりごろ、マケドニア王として名を馳せたアレクサンドロス大王が死去した紀元前323年前後のものだろうと推測した。

 しかし、この墓がアレクサンドロス大王の家族または大王にかなり近い人物のものかといったことはまだ分かっておらず、多くの歴史家は、巷で飛び交っている様々な仮説は単なるお遊び的な憶測にすぎないとしている。

「今のところ分かっているのは、非常に精巧な細工の施された遺跡があり、その一部が損壊し、何者かに荒らされていたということだけです」ヒューストン大学のフランク・L・ホルト教授はそう語った。ホルト教授は、アレクサンドロス大王に関する著書を数冊出版している。「見つかった遺骨には土葬されたものと火葬されたものがあり、誰のものかは不明で、元々の建造物とは何の関係もないものかもしれません。また、それぞれの遺骨の主が互いに関係があったかどうかも分かりませんし、年代すら不明です」

埋葬された老若男女

 埋葬室から見つかったのは550個の人骨で、これまでのところ60歳以上の女性1人、35~45歳の男性2人、性別不明の新生児1人が特定され、そして性別や年齢は分からないが、火葬された成人のものと見られるごくわずかな遺灰が見つかっている。

 約4分の1(157個)が原形をとどめており、研究者らはそこから性別、年齢、身長を割り出した。残りは、脊椎をはじめとする骨の欠片ばかりだった。数は不明だが、馬やロバなどの動物の骨も見つかっている。

 分析を困難にしているのは、遺骨が全て本来埋葬されていたはずの場所と異なる場所で見つかったことと、重要な手掛かりになりそうな副葬品が発見されていないという事実である。

埋葬室から発掘された550個の人骨は、これまでのところ60歳以上の女性1人(上記写真の遺骨)、35~45歳の男性2人、新生児1人、火葬された成人が1人と特定されている。(Photograph Courtesy of Greek Ministry of Culture)

 女性の遺骨の一部は埋葬室の床にあった小さな墓から発見されたが、同一人物の頭蓋骨とあご、そして他の4人の遺骨は室内に堆積した厚さ2.6メートルの土の層の中にばらばらになって眠っていた。考古学者らは、古代の墓荒らしの仕業か、地震などの自然現象によるものとしている。

 いずれにしても、そのおかげで埋葬室の5人が互いに関係のある人物なのかどうかの判断が難しくなってしまった。考古学の最も基本的な手段である層序学(地層のできた順序によって遺物の相対年代を割り出す)による調査はこのケースでは役に立たない。

 そこで研究者らは、加速器質量分析法と呼ばれる技術を用いて年代を測定し、使えそうなサンプルからDNAを取り出すことも検討している。同位体分析をすれば、それぞれの食事や環境についての情報も得られるはずだ。

 しかし、答えはすぐには出そうにない。この研究は、他にもアンフィポリス周辺の古代墓地から発掘された300組もの人骨を分析する長期プログラムの一環であり、完了までに数年がかかるとされている。

未発掘の遺跡は他にもある?

 カスタ・ヒルでは他にも最近新たな発見があり、発掘作業は長期戦となりそうな気配だ。今回の発掘後には、研究、資料作成、墓の保全活動など、様々な作業が待っているのだが、それだけで終わりそうにはない。

 ここ数カ月間に行われた地球物理学的調査が示唆するところによると、外周497メートルのこの巨大な丘には他にも人工建造物が眠っている可能性があり、発掘されるのを待っているというのだ。特に、今注目されている墳墓の西側が有力視されている。

 一方専門家らは、これまでに政府の発表したわずかな情報から見えてきた巨大な墓の規模、変わった特徴、華やかな装飾などに関心を寄せている。

 ミズーリ大学教授でアレクサンドロス大王の専門家であるイアン・ワシントン氏は語る。「遺骨の主を特定できなかったとしても、これは国際的にきわめて重要な意味を持つ発見であり、歴史的にも得るものは大きいでしょう」

文=Kristin Romey