最終話 惜別と感謝と、新たな地平

 そんな答えなど、誰も持っていない。

 けれど私たちは、1つの可能性を探ってみることにした。

 もしかしたら、性格が優しく穏やかなメスのノーラを横に繋げば、発作のきっかけとなる興奮を抑えることができるのではないだろうか?――と。

 私はさっそく橇の準備をして、ソルティーを迎えに行くと、彼は大喜びして私にしがみついた。

 2匹の優秀なリーダー犬を連れて行くことにして、ゆっくり走行の4頭立てで行く。コースは、ロッジ周辺の5キロほどだ。

 ソルティーを橇に繋ぐと、彼は悠然と出発の合図を待っていた。

 もともと、リーダー犬としての素質のある犬だったのだ。

「ハイク!」と指示を出した後の発進も問題なく、橇は勢いよく森の中を駆け出した。

 そして、アスペンの林を抜け、凍ったミンチュミナ湖に滑り出た。

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 広大なスペースに出て、一気に空が大きくなる。

 その空には、太陽に大輪の暈(かさ)が覆う幻日環という現象が起きていた。

「なんて美しい……」

 私は橇を止めて、ソルティーに駆け寄って抱きしめた。

「見える? 太陽の輪だよ」

 ソルティーには、そんなことなど、どうでもいいようで、クネクネと体をよじり、軟体動物のように私に甘えてきた。

 そして、ガブリと雪を食べ、ふかふかの雪のなかに顔を突っ込んで、白い顔を更に白くさせていた。

 その顔が、私にはなんとなく、笑っているように見えたのだった……。

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