最終話 惜別と感謝と、新たな地平

 橇犬たちにとって、なにが一番幸せなのか?

 それはやはり、私たちと共に走り、共に旅することだろう。

 私は、犬を愛玩しペットにすることだけが、犬の幸せとは考えない。

 たとえ橇犬たちの命が、現役のときだけの短いものだとしても、私はそれをかわいそうとも、否定しようとも思わない。

 なぜならば、私もきっと、だらだらと長生きするよりも、命短くても、精一杯に駆け抜ける人生を選ぶだろうから……。

 それに、そもそも私たち人間の営みや、経済産業の裏で、どれだけ多くの動物たちが、人間の勝手によって命を翻弄されていることだろうか。

 肉とされる経済動物、動力の一部として使われる使役動物、そして医学や薬学の発展の他、化粧品などの開発に使われる実験動物など、その現実に向き合おうとすると、目を逸らし、胸が痛む事実はいっぱいある。

 けれど、人間はそういった多くの罪の上に生きているのだ。

 だからこそ、私は深く感謝をもって、動物たちと接したい。

 だからこそ、橇犬たちの時間を大切にし、思う存分、この冬を謳歌させてあげたいと思う。

 時おり、「犬橇の犬たちは、かわいそう……」と、安易に言う人がいるが、走ることが大好きな橇犬たちのキラキラとした目、生き生きとした姿を見ると、そんな簡単な感情で説明できるものではないと、私は思うのだ。

 言ってみれば、犬橇の世界というのは、マッシャーの深い愛情と断腸の思いと、その覚悟。そしてそれに、命をもって応える犬たちとの葛藤と絆の物語のようなものだ。

 少なくとも、トーニャにとっての犬橇は、そうなのだ。

 私たちは、必死に考えた。

 冬が終わってしまう前に、もう一度ソルティーに、走る喜びを感じさせてあげたい。

 どうしたらソルティーを、発作を起こさせないで走らせることができるのだろうか?