第2回 北西の季節風が吹く長崎北西海岸を漕ぐ

 北極圏の遠征の話を書く連載の場で、なぜ長崎の海の旅のことを書いているのか読者は不思議に思うかもしれない。しかし、この旅は実は重要な北極探検の準備、訓練の場でもあった。

 現在のところ、私は次の冬、すなわち2015年11月頃から翌2016年3月ごろにかけて本番の極夜探検旅行を実施するつもりでいる。期間は4カ月ほどだろうか。しかし、いくら橇に物を積むとはいえ、4カ月分もの燃料や食料をすべて運ぶのは不可能だ。そこで私は4カ月分の食糧と燃料のうち2カ月分を、あらかじめ夏のうちに運び、デポしておこうと考えている。そのデポを運ぶための手段として考えているのがシーカヤックである。

 もちろん地元のイヌイットにお金を払って動力船を出して運ぶこともできるが、できれば自分の旅は可能な限り自分の力だけで完遂させたい。私にとって探検旅行は、それ自体が自分の世界観を表現した作品でもある。作品である以上、他者の力に依存した不純な要素はできるだけ排除したい。

 夏にシーカヤックで荷物を運ぶことにした私は、使う艇を様々な海外遠征に実績のあるカナダのフェザークラフト社の折り畳み式カヤックに決め、琵琶湖で同社のカヤックの取り扱い代理店を営んでいる大瀬志郎さんに連絡をとった。大瀬さんによると、そのような使途ならヘロンという一人艇としては一番大きなタイプがいいだろうということになり、その艇を特別にかなり安い価格で販売してもらって、実際に彼が主催している奄美や島根半島のツアーに参加して漕ぎ方の基礎を教えてもらった。

 今度の長崎の航海の同行者である山口君を紹介してくれたのも大瀬さんだった。関東近辺で練習するときに誰か相手をしてくれるカヤッカーがいないか相談したところ、大瀬さんは山口君の連絡先を教えてくれた。

 山口君は出会ってからすぐの段階で、私にとっては単なる練習相手にとどまらない存在となった。彼と出会ったのは昨年11月に沖縄の西表島で一緒に漕いだときが最初だったが、その航海の初日に「君もグリーンランドに行って、一緒にデポを運ばない?」と冗談半分で誘ってみたところ、なんと「あ、俺、グリーンランド行きますよ」と参加を即決したのである。

 即決というより、彼は私と会う前から私のグリーンランドの話を大瀬さんから聞いており、勝手に参加する意向を固めていたのだろう。そんな気配が口ぶりからはうかがわれた。実際のところどうなのかは聞いていないが、とにかく彼は夏のデポ設置旅行に同行する私の旅のパートナーとなったのである。

 山口君の参加は私にとっては大助かりとなった。ヘロンがいくら大きな艇だといっても、1艇で2カ月分の荷物を運ぶのは難しいので、もともと私は知り合いの何人かに一緒にグリーンランドでカヤックを漕がないかと声をかけていたのだ。船が2艇になれば積載能力は十分なものになる。それに彼はカヤックの熟練者なので計画の安全度は格段に高まるはずだ。