動けなくなった魚を飲み込む様子を早送り動画で紹介

 獲物を捕まえられなければ食事にありつけない。しかし足に自信はない。ならば、裏ワザを使うしかない。動きの遅いアンボイナガイ(学名:Conus geographus)の場合、その裏ワザとは、魚に薬をもることだ。

「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に今週発表された論文によると、イモガイの仲間で熱帯に生息するアンボイナガイは、インスリンを含んだ毒を発散して魚を襲うという。血糖値が急激に下がった魚は、昏睡状態に陥ってしまう。

 スキューバダイバーたちがきれいな模様に惹かれてイモガイを手に取り、その針に刺されるという被害はよく聞く。なかでも最も毒性の強いアンボイナガイは、刺されれば死に至る危険性もある。そのアンボイナガイは、さらにとんでもない方法で魚を捕まえていた。

「魚は完全に薬漬けにされてしまったかのように見えますね」と話すのは、スミソニアン国立自然史博物館のイモガイ専門家クリストファー・マイヤー氏である。マイヤー氏は、今回の研究には参加していない。

 魚が低血糖による昏睡状態に陥ると、アンボイナガイは獲物の上に毛布を拡げるように大口を覆い被せ、動けなくなった獲物を取り込む。念には念を入れて、魚が完全に麻痺するようそこでさらに毒を注入する。

オーストラリアの岩礁を這うアンボイナガイ(Photograph by Design Pics Inc.)

 ソルトレイクシティにあるユタ大学でこの毒について研究するヘレン・サファヴィ・ヒマミ氏によると、イモガイの毒液に含まれる他の化合物も、似たような働きをするという。インスリンを含むこの種の毒は「ニルヴァーナ・カバル(Nirvana cabal・コナントキン類)」と呼ばれる神経毒の一種で、これに見舞われると放心したり混乱状態に陥る(dazed and confused)。

 しかし、イモガイ以外にインスリンを使って殺傷する動物は他に知られていないと、論文の筆頭著者でもあるサファヴィ・ヒマミ氏は話す。例外は、おそらく人間だけだ。1980年代に、インスリン注射を使って金持ちの妻を殺害しようとした夫のニュースが大きな話題を呼んだ。

 アンボイナガイの近縁のシロアンボイナ(学名:Conus tulipa)も、同じ方法で魚を捕食する。「見事なやり口だと思いませんか」グアムでシロアンボイナを研究したことのあるマイヤー氏は、魚がまるで酒に酔い潰れたかのように見えると話す。今やっと、その謎が解明された。

文=Jane J. Lee