第16回 「夢はレム睡眠のときに見る」のウソ

 夢はレム睡眠が2、30分以上持続したときに出現しやすくなる。よく知られているように、レム睡眠は約90分~120分の間隔で1晩に数回出現し、睡眠後半に向かうほど持続時間が長くなり、その間の皮質活動も活発になる。そのため朝方に鮮明でストーリー性のある夢を見ることが多い。

 ノンレム睡眠中でも一定の皮質活動は維持されるため夢を見る。その意味で夢はレム睡眠の専売特許ではないし、2つの睡眠ステージの夢に本質的な違いはない。ただし、ノンレム睡眠時には皮質活動が低下しているため、まとまりのない曖昧な夢になりがちである。深い眠りから急に起こされて寝ぼけた状態の時、しばらく思考が混乱し、場所や時間が分からず困惑した経験はないだろうか。ノンレム睡眠時の夢体験はそのような皮質活動が低下しているときの思考パターンに似ている。

 夢を見ないレム睡眠もある。前頭葉に損傷のある人のレム睡眠である。夢を見るためには大脳皮質、特に前頭葉の活動が必要で、レム睡眠があるだけではダメなのである。ちなみに、レム睡眠中の急速眼球運動は夢に必須ではない。眼球のキョロキョロした動きは夢体験とは基本的に無関係である。

 さまざまな睡眠段階で夢をみることは分かったが、どのような引き金で夢が始まり、そして終わるのか、詳しい神経メカニズムは実は未解明である。1つの可能性として、前頭葉に向かい、人間の欲求や快感を司る「ドーパミン神経系」の役割が注目されている。前頭葉にダメージがあると夢見が消えること、ドーパミン神経系を興奮させる覚醒剤などの薬物で鮮明な夢や悪夢をみること、ドーパミン神経系をブロックする向精神薬が悪夢を改善することなどが傍証だ。

 このように夢と情動は密接にリンクしている。例えば、「レム睡眠行動障害」と呼ばれる夢の内容そのままに体が動いてしまう睡眠障害では、日中にストレスを感じるような出来事があるとてきめんにその晩に症状が悪化する。会社で上司から叱責された晩に、夢の中で口論し激高して相手に殴りかかったところで家族に起こされるなどというケースもざらにある。その時患者は大声を上げて立ち上がり、目の前にけんか相手が居るかのように腕を振り回していたのだ。

次ページ:良い夢を見るためのコツは?