第16回 「夢はレム睡眠のときに見る」のウソ
レム睡眠は1953年、今から60年前にシカゴ大学のKleitman教授とその大学院生Aserinskyが発見した。その当時すでに脳波計は開発されていたが、睡眠中の脳波は覚醒時に比較して周波数も遅く単調であったため、睡眠は単なる脳の低活動状態だと考えられており、脳科学的には大きな関心の的ではなかった。
博士号のためとはいえ、ひたすら夜中に脳波測定と行動観察をさせられていた大学院生のAserinskyもずいぶん地味な仕事だとボヤいていたとかいないとか。ところが、彼らはそれまで知られていたのとは異なる3つの特徴を持つ睡眠状態を見つけたのである。1953年、今から60年前のことである。
第1の特徴は、その睡眠状態では眼球がキョロキョロと急速に動くことである。
通常、睡眠中には眼球はゆっくりとした動きを示す。そこで彼らは急速眼球運動(Rapid Eye Movement)の頭文字を取ってREM sleep(レム睡眠)と呼ぶことにした。それ以外の睡眠はやや安直ながらNon-REM睡眠(ノンレム睡眠)と命名された。
第2の特徴は、レム睡眠では筋肉の緊張が低下して体動がほとんどなくなることである。下等動物で知られていたような「動かない睡眠」の痕跡が人でも確認されたのだ。逆に、ノンレム睡眠(特に脳波活動が大きく低下する深睡眠)は、エネルギー消費を抑えるという役割以上に、脳を休める睡眠としてクローズアップされるようになった。
そして第3の特徴がレム睡眠を一躍有名にした。その特徴とはレム睡眠中に外からの刺激で覚醒させると被験者が夢を見ていたと回答する確率が約80%と極めて高いことが分かったのである。
「夢見睡眠」としてすっかり有名になったレム睡眠だが、実はノンレム睡眠中にも我々はかなり夢を見る。ノンレム睡眠中でも20~60%ほどの被験者は夢を見ていたと答える。レム睡眠中よりは低いとはいえ、かなり高いと思いませんか?
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