7年歩き続けて取材 “スロージャーナリズム”の力

ピュリツァー賞受賞ジャーナリストは何を伝えようとしているのか

2015.01.20
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2頭のラクダを引き連れてエチオピアのアファール低地の砂漠を横切るポール・サロペック。(Photograph by John Stanmeyer, National Geographic)

米国ワシントンD.C.発:ピュリツァー賞を受賞したジャーナリストのポール・サロペックが、アフリカ大陸から南米大陸の最南端までを7年がかりで歩く旅「アウト・オブ・エデン・ウォーク」。彼はツイッターやビデオチャット、ブログといった最新のデジタル技術と最古の移動手段とを融合させ、自ら拾い集めたさまざまな物語をこの間、世界中とシェアしている。

 まるでパラシュートで降り立つように世界中へ赴く短期取材にうんざりした彼は、「さまざまな物語を、最も古いジャンルである探求の物語にまとめるアイデアを思いついたんです」と、2015年1月13日、首都ワシントンD.C.にあるニュージアム(報道に関する博物館)で語った。

 スロージャーナリズムについてのディスカッションが行われたこの会合で、サロペックは遠くグルジアの首都トビリシからSkype(スカイプ)で議論に参加した。旅を続けるために雪解けを待っていた場所だ。それはまるで新しいデジタルプラットフォームを駆使した徹底的な報道という部会のテーマを象徴するかのようだった。

「素早く行き過ぎると逃してしまいがちな、隠れた関係性をスロージャーナリズムでは築くことができます」と同氏は述べた。「世の中は複雑で、細切れになった単なる情報以上のものを私たちは必要としています」

ルワンダのキガリにある壊れかけたホテルの1室で、蚊の襲来から身を守るためテントの中で本を読むサロペック。(Photograph by Michael Nichols, National Geographic)

長い徒歩の旅と新たなジャーナリズム

 ピュリツァー賞受賞ジャーナリストが今から6万年前にアフリカ大陸から始まった人類の拡散ルートをたどる、全長2万1000マイル(3万4000キロ)の徒歩の旅は2年目に突入している。

「7年間の旅が終わる頃には、彼はさまざまな物語でモザイク状の地球を作り上げていることでしょう」と、ナショナル ジオグラフィック協会CEOのゲイリー・E・ネル氏はサロペックを紹介した。

 ナショナル ジオグラフィック協会、ナイト財団およびハーバード大学の支援を受けながら、サロペックはアフリカと中東を通過し、出発地点のエチオピアからトルコに到達した。

 彼の体験は『ナショナル ジオグラフィック』誌でこれまで3回にわたって特集されているが、それ以外にもブログを更新し、ツイッターでつぶやき、世界中の200を超える教室でビデオチャットを行っている。

 サロペックの徒歩の旅は、年中無休、分刻みのニュースが主流となりつつある今日の報道において、スロージャーナリズムの持つ役割について幅広い議論を巻き起こしている。

「ファストジャーナリズムはほとんどが情報についてです」と、ニュージアムでパネリストを務めた『ナショナル ジオグラフィック』誌の編集長、スーザン・ゴールドバーグは言った。「一方、スロージャーナリズムは主に意味を扱います」

 サロペックは見聞きする事柄の深い意味を時間をかけて捉え、自らの観察から人を動かさずにはおかない報道を作りあげるとゴールドバーグは分析する。「スロージャーナリズムとは、物語をゆっくりと伝えてゆくという意味ではありません。彼は最速の手段を使ってこれらの物語を伝えているのです」

 サロペックも付け加えた。「スロージャーナリズムが“時代遅れや古臭さ”となってもいけません。カギは話す前に考えること、書く前に考えることです」

重要なのはバランス

 多くの報道機関がスロージャーナリズムを行う時間も資金もないと感じているが、経営者の多くは自らのチームを正当に評価していないと指摘するのは、ハーバード大学ニーマン・ジャーナリズム財団の学芸員であるアン・マリー・リピンスキだ。彼女いわく、秘訣は「今すぐ知るべきことと、長く時間をかけてつむぐべきストーリーのバランスを見つけることです」

 スロージャーナリズムは速報性も持ちえるとサロペックは言う。「時間をかけて、誰も注目したことがなかった無関係な分野を結びつけてみるんです」。一例として、ソマリア沖の海賊がアデン湾から調査船を遠ざけたことに触れた。そのせいで何が起こったのか。インドで気象の予測がより困難な状況に陥ったのだ。

 同じ日に、ナイト財団はサロペックの「アウト・オブ・エデン・ウォーク」に対し95万ドル(およそ1億1000万円)の助成金を出すと発表した。財団の副理事長のジェニファー・プレストン氏いわく、「ツイッターでは送信できない140文字以上の言葉で公の注目を集めなければならない非常に重要な時には、私たちはストーリーの前に読者を集め、繋ぎとめなくてはなりません」

[編注]これまで『ナショナル ジオグラフィック』誌に掲載されたポール・サロペックの特集は以下の通り。
【第1回】全長3万3000キロ 人類の旅路を歩く
【第2回】アラビア半島 失われた井戸の記憶
【第3回】「約束の地」レバントへ

文=Brian Clark Howard/訳=益永依子

  • このエントリーをはてなブックマークに追加