第85回 オオカミの気配

 ジャッド湖の東の端に到着すると、ほんの数10メートルしか離れていないところに、もうひとつ別の湖があるのが見えました。

 それは、ジムの写真集で幾度か名前を目にしていた、ディスカバリー湖でした。

 荷物を下ろし、カヌーを2人で持ちあげ、短いポルタージュの上を歩いて、ディスカバリー湖まで運びました。

 カヌーはとりあえず岸に置いたままにして、「見晴らしのいい場所があるから」と、ジムについて、ポルタージュの脇から伸びているトレイルを歩きました。

 辿り着いたのは、湖全体を見渡すことのできる高台でした。

「名前の通り、来るたびに発見があるんだ……」

 ジムがそうつぶやいたディスカバリー湖は、決して大きな湖ではありませんが、入り江が多く、いくつかの小さな島もあり、湖岸にはさまざまな種類の森が広がっていて、見る場所によって表情を変える、美しい湖でした。

 ここも、ジムの私有地なのかと思って聞いてみると、湖岸のすべての土地を所有しているわけではないとのことでした。

 が、ジャッド湖以外からは簡単にアクセスができないので、ほぼジムの撮影専用の湖といってもいい立地でした。

 滝、小川、ニオイヒバの森、ジャッド湖、ディスカバリー湖……ジムがレイヴンウッド・スタジオに選んだ土地は、まさにこのあたりの自然のエッセンスを詰め込んだような場所なのです。

 ぼくたちは再びカヌーを置いた場所に戻り、ゆっくりと散歩するようなスピードで、ディスカバリー湖に漕ぎ出しました。

 しばらく進むと、湖岸沿いに古い倒木がひとつ横たわっていて、その1カ所が、何かが掘り起こしたように崩れていました。

 ジムはそれを指差し、枯れ木に巣を作っているアリを食べに、クロクマがやってきたのだと、教えてくれました。

 カヌーが入り江のひとつに入っていくと、水底が浅くなり、丸い葉が水面に茂っているところに出ました。