第85回 オオカミの気配

「モッキー……ランド?」

「そう、モッキー。日本にもきっといるだろう?」

 ぼくが聞いたことないようなそぶりを見せると、ジムはにこりとして話を続けました。

「このあたりの先住民たちの間にもいる。それに、わたしの祖先の土地のノルウェーにもいる。いろんな名前で呼ばれているけれど……つまりは、森にすむリトルピープルさ。彼らの暮らすところがあるから、そこへいこう」

 出かけることが決まると、ジムはさっそく防水用のカメラケース、小さめのリュック、三脚を用意しました。

 出発して向かったのは、ブッシュキャンプへいくときと同じトレイルでした。

 ジムの後ろについて歩き、ジャッド湖へ到着すると、キャンプのある岩棚の上へは登らず、そのまま湖の岸に向かいました。

 その先には、ちいさな桟橋があり、パドルやライフジャケットを収納するための木箱と、その脇の草地にアルミ製のカヌーが逆さまにして置いてありました。

 カヌーには座席が前後に2つあって、機材やリュックを積み込んだあと、ぼくが前の席に座り、ジムは、後ろの席に座りました。

 ジムが手に持ったパドルで桟橋を押すと、カヌーは静かに岸を離れました。

 湖面に漕ぎ出すのは、ずいぶん久しぶりでした。

 まわりの景色がゆっくりと旋回し、ふたりでパドルを漕ぐと、湖岸の森が音もなく流れはじめました。

 手が届きそうなほど近い湖面。

 周囲をとりまく深い森。

 帰国すれば、しばらく見ることのできないこの光景を、ぼくはしっかりと目に焼き付けておこうと思いました。