第85回 オオカミの気配

 人生で2度目に書く、英文の手紙に苦労しながらも、ぼくは懐かしい気持ちでいっぱいでした。

 9カ月ほど前、同じくジムに向けて書いた手紙。

 弟子入りを願い、辞書を手に、何度も何度も書き直しました。

 良い返事がきたらどんなに素晴らしいだろう。

 でも、良くない返事がきたら、この先どうしよう。

 書き終えてもまだ、そんな期待と不安とが、かわるがわる押し寄せてきたあのときの感情を、つい昨日のことのように思い出したのです。

 結局、あの手紙は届かなかったけれど、今度は、面と向かって手渡すことができるので、行方が分からなくなる心配はありません。

 でも、ぼくはふと思いました。

 <もし……あの手紙が届いていたら、果たしてジムに会えただろうか?>

 おそらく、無事に届いていたら、断りの手紙が戻ってきただけかもしれない。

 返事が来なかったからこそ、ぼくはここに来る決心をして、その結果、ジムに会えた。

 だとしたら、すべてが上手くいくことだけが、人生にとって大切なことではないのかもしれません。

 夜が明け、森が明るくなった後、ぼくはレイヴンウッド・スタジオに向かって歩き出しました。

 新しく手に入れたトランシーバーを試したいからと、ジムに朝から呼ばれていたのです。

 すっかり馴染みとなったゲートをくぐり、スタジオに着いてジムとジュディに挨拶をすませると、ぼくは、昨夜書いた手紙を渡しました。

 ジムは、「なんだい?」というふうに、すこし驚いたように手紙を受け取りました。

 が、ぼくの意図をすぐに察してくれたのか、その場で手紙を開けて読んでくれました。