出発は、相変わらず興奮に包まれた。
アンや若手の犬たちなど、高揚を抑えられずに鳴きわめいている。
飛び跳ねまわり、橇はまだ杭に繋ぎ留めてあるにもかかわらず、それをなぎ倒さんばかりの力で、強引に橇を引こうとする者もいる。
「落ち着いて! まだ出発もしていないうちからエネルギーを使わないでよ!」
そんな言葉で、犬たちの興奮をなだめようとするが、まったく効果がない。
彼らをなだめるには、一刻も早く「ハイク!(走れ!)」と指示を出すことだ。
橇の状態と犬たちがまっすぐに並んでいることを確認すると、私は、その言葉を発した。
すると犬たちは、まるでブザーが鳴って急発進したジェットコースターのように走り出し、ロッジ前の最初の下り坂を降りていった。
森の中を走り、山を越え、小さな湖が凍ってできた雪原地帯に出ると、そこからは、新雪で道筋が消えていて、行く先が分からなくなってしまった。
こうなると、リーダー犬たちは辿る道を見つけられず、混乱してジグザグに走ってしまう。
トーニャは橇から降りて、リーダー犬を引っ張って、こっちの方向だと教えながら前を歩きはじめた。
が、ある程度進んだところで、トーニャが再び橇に乗ろうと後ろに戻ってくると、犬たちまでついて来てしまって、まるで自分の尻尾に噛みつくヘビのように、犬橇の列が円を描いている。
挙句には、列が乱れたことによって、犬たちのケンカがはじまる始末……。