ロッジ内の壁に飾られている大きなムースの角などは、物干し竿の代わりにはちょうどいい。
トーニャと共に、スノーモービルでの挑戦で雪に濡れてしまった服などを引っ掛けて干していると、トーニャが私に言った。
「明日、長距離行に出よう」
「え?」私は耳を疑った。
冬の森の中で極寒野宿をした次の日である。普通ならば、しばらくはのんびりとするところだ。
けれどまた、私も弾む声で返した。
「いいね! 出よう」
春が近づき、帰国も迫っていたので、のんびりするのは、もったいない。
トーニャもまた同じように考えていて、1日も無駄にせずに、私と共に犬橇をすることを決めていたのだ。
そして彼女は言った。
「これは、見習いマッシャー卒業式のようなものよ。自分が思うように、犬たちと走ってみるといいわ」
今回の行程は、スティーブの父母、トムとペリーが切り開いたトラップライン。
今も罠猟が行われている現役の罠師の道だ。
「さて、どの犬を連れていこう?」