第118話 耳が聞こえなくても……。

 トーニャは、頬に手を当てて考え込んだ。

 チーム編成は、いつもトーニャが決めるのだ。

 けれど、今回、私は言ってみた。

「障害のある犬たちを連れていきたい」――と。

 私にとって、これが最後の犬橇での長距離行になるかもしれないとすれば、やはり障害を持ちながら頑張っている犬たちと走ってみたい。

 特に連れて行きたいのは、鼻呼吸が困難ながらもリーダー犬を務めるルーニー、耳の聞こえないアン、そして、癲癇を抱えるソルティーだった。

 トーニャはしばらくうつむくと、リーダー犬として優秀なルーニーはいいけれど、アンとソルティーの起用は難しいと言った。

 やはり、耳が聞こえないとか、癲癇の発作を起こすかもしれないということは、ちょっとしたことでも遭難に繋がる過酷な自然の中での長距離行では、排除したい不安材料だ。

 それでも私が粘っていると、トーニャは、ソルティーに関しては、首を縦に振らなかったが、アンに対しては起用を許してくれた。

 アンは、耳が聞こえていなくても必死に前の犬たちのあとを追って、橇を引いてくれるからだ。

 何度か練習でアンと一緒に走ったことがあるけれど、出だしが遅れて引きずられたり、指示が解らずに足手まといになったりすることはなかった。

 アンはアンなりに、橇犬としての自分の役割が果たせるように、努力しているのだ。

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