第39回  つぶすほどに美味しい イランの伝統料理

「イランは米が主食ですが、アーブグーシュトはナンと食べるのが決まりです」。そう言って、エマミエさんは平べったいパン(ナン)を小さくちぎって、そこへスープをかけた。ここにペースト状の具を加え、一緒に食べるのだという。もはや見た目は離乳食。フタをあけたときの色味がきれいだっただけに、少しもったいない気がするのだが、それは私だけだろうか。ただ、スープにひたしたナンにペーストをつけて食べるものと考えれば、「急な来客でも(ナンをひたすスープに)水を足して増やせばもてなせる」という言葉も、なんとなく頷ける。

 しかし、一口食べて驚いた。口当たりはまろやかでやさしく、肉の旨み、野菜の甘みや酸味が複雑に交じり合ってなんとも滋味深い。熱々の料理ではないのに、体の中からじんわりとあたたかさが広がる。具が固形でそれぞれ食べていたら、ここまでの味わいはでないだろう。「冬でもあたたまる、体にいい料理なんですよ」とエマミエさんが微笑む。

 それにもかかわらず、だ。ナスリンさんが2人の息子さんに取り分けたアーブグーシュトは具をつぶしていないものだった。長男のレイザさんに尋ねると、「つぶしてないほうが好きなんです。それぞれの具が味わえるから」とのお答え。まあ、それもわかる。

 1998年にエマミエさんが日本で会社を設立し、2001年に家族で来日した。ナスリンさんのつくる一番好きな料理を「ラザニア」という子どもたちは、日本での生活のほうが長い。だから、私と同じ違和感を持つのだろうか。

ちぎったナンにスープをかけ、十分に含ませてからペースト状にした具を乗せて食べる。ディーズィーにはジャガイモとドライレモンが入らないことが多いようだ
塩味のヨーグルトドリンク、ドゥーグ。さっぱりしているので、アーブグーシュトのような煮込み系には欠かせない。ミントを入れることも忘れずに
サフラン風味のライスプディング、ショレザルドはイランの伝統的なデザート。サフランはイランで最もよく使われるスパイスで、毎日のように口にするという