第39回  つぶすほどに美味しい イランの伝統料理

 煮込んで40分を経過したところで、ナスリンさんが半分に切ったジャガイモを鍋に入れ、塩とコショウで味を調えた。火が通りにくいジャガイモをそんなに後に入れるのは少々不思議だ。「これが基本的なつくり方です。でも、今日は最後に火を通したナスを添えます」とナスリンさん。ナスを添えるのは、エマミエさんの故郷であるイラン南西部のフーゼスターン州の食べ方だそうだ。

「私は古都イスファハンの出身です。結婚したときは料理が苦手だったんですけど、主人の母にいろいろ教わりました」。いまやエマミエさんも自慢する腕前のナスリンさんは、春頃に東京・中央区にレストランを開く予定だそうだ。

「そろそろいいようですね」とエマミエさん。鍋のフタをあけると、風味豊かな香りが広がる。そこへナスリンさんがザルを手に、アーブグーシュトのスープと具を分け始めた。スペインのソウルフード「コシード・マドリレーニョ」がやはりスープと具を分けて食べるものだったが(第17回参照)、同じスタイルなのだろうか。

 しかし、続いてナスリンさんが手にしたのはフードミキサー。なんと、それで具をつぶし始めたのだ。肉や豆、ジャガイモが跡形もなくペースト状にされていく……。「こうすることで素材が絡み合って味の深みが増すんです」とエマミエさん。本来は槌のような専用の道具でつぶすらしい。そうか、ジャガイモを後から入れたのは、煮込みすぎてスープに溶けてしまうのを防ぐためなのだろう。

アーブグーシュトのスープと具を分け、肉の骨をきれいに取り除いてからつぶしていく