第39回  つぶすほどに美味しい イランの伝統料理

 そういってナスリンさんは食材と水を圧力鍋に入れて火にかけた。肉は骨がついたまま、切らずに投入。1時間ほど煮込むそうだが、普通の鍋だと5時間ほどかかるという。

「アーブグーシュトは休日に食べることが多いですね。イランでは、休日は家族・親戚や友人と大勢で食卓を囲みます。よく言われている言葉に『アーブグーシュトなら急な来客でも水をもう一杯入れればいい』というのがあります。水を足せば量が増えるので、人が増えてももてなすことができるという意味です」

 その言葉をいまいち理解できなかったが、疑問を挟む間もなく、エマミエさんは饒舌に話を続ける。「もともとは労働者が好んで食べる料理でした。首都テヘランの南部にある労働者が集まる地域にはアーブグーシュトを出す古いカフェがいくつもあって、今でも昼は労働者であふれています」

 そうした古い店のアーブグーシュトは、小さな素焼きの壺で出されることが多いという。「アーブグーシュトは別名でディーズィーとも呼ばれます。ディーズィーとはその素焼きの壺のこと。昔は一人分の材料を壺に入れて煮込んでいたんです。今は大きな鍋でつくることが多いですが、最近そのスタイルに着目したディーズィーのファストフード店が若者に人気。デリバリーもあるんですよ」

「アーブグーシュトにはピクルスやチェリーの酢漬けを付け合せにするんですよ」とモハマッドさん。チェリーの酢漬け(中央)はイランではポピュラーだそうだ
イスラム教の聖典『コーラン』に「神が与えた食物」として登場するデーツ(なつめやし)。ゴマのペーストをつけていただいた