この斜面は、泥岩が風化してできたもの。細かく壊れた泥岩は、砂場を歩いているようで、歩くと足を取られてしまう。しかも急な斜面なので、3歩上がっても、2歩分くらい下がってしまう。歩いているとすぐに足ががくがくし始めた。さらに最悪なことに、化石の出る雰囲気がない。みんなが探している砂岩とは大違いだ。

怪しい「白い砂」

 午前中は何とか頑張って、この斜面を歩き続けた。さすがの「ウォークマン」も足腰が疲れてきた。ハンマーで斜面をお尻の形に掘り、重力に従い、そこに腰を下ろした。少し潰れたサンドイッチと温かい缶ビールをバックパックから取り出した。目の前の美しい渓谷を見ながらランチを食べ始めたところで、私は後悔した。キャンプまではまだ遠い。ここで足腰を使ってしまうと、帰る体力が無くなってしまうかもしれない。持ってきた水の消費も思ったより早く、このままではキャンプまで持たないかもしれないと不安がよぎる。

 GPSユニットを見ると、キャンプまでまだ15キロ以上ある。ずいぶん歩いたと思ったが、まだ7キロほどしか歩いていない。それもそのはず、7キロは直線距離で、斜面を上がったり降りたりし、砂丘の中も歩いたりしたから、思った以上に疲れているのだ。水を3リットル持ってきたが、半分は残すことを決め、立ち上がった。取り敢えず、水があれば大丈夫。残り15キロと言っても、キャンプに近づけば慣れた道だから、それまでの辛抱だ、と自分に言い聞かせる。

 ランチをとり終え、バックパックを肩に担ぐ。お昼の分が無くなっているから軽くなっているはずなのに、なぜかさっきよりも重く感じる。

 これまでの泥岩の地層よりも少し下に下がって、斜面を歩いた。同じような急な斜面だが、さらさらとした黄色っぽい砂が広がっている。ずっと泥岩の風化したところを歩いていたと思っていたが、ここは砂岩の地層だ。でも、みんなが遊離した歯や骨を見つけている砂岩層よりも、砂の粒が細かい。よく見ると、その黄色い砂の中に、今まで見たことのないものがある。白い砂だ。
 少しずつその白い砂に目を近づけていくと、砂ではなく、風化して細かくなった骨のようだった。手のひらに載せ、ルーペで見てみる。間違いなく骨だ! この時は1人でうなった。なぜこんなところに骨があるんだろう。

 取り敢えず掘ってみようと、ハンマーとピック、ブラシをバックパックから取り出す。砂と化した骨の周りをブラシで掃いてみると、さらに砂状の骨が出てくる。そして次第に骨の粒の大きさが大きくなり、やがて骨の固まりが出てきた。しかもその骨はどんどん大きくなっていく。周りの石は軟らかく、簡単に掘り込むことができた。
 1時間ほど掘り続けると、形があらわになっていく。長細く、大きく湾曲している。掘り出した部分だけでも、長さ70センチ、幅5センチを超える。それが恐竜の肋骨であることは簡単にわかった。

白い砂を掘り進んでみたところ。刷毛の上に、長細い骨が見える。

 時計を見ると、午後2時を回っていた。もうキャンプに戻らないとまずい。取り敢えずこの場所をGPSユニットに登録して、更なる発掘は明日にしようと心に決めた。

 埋め戻す前にもう1度、大きな肋骨を見つめる。これまでの遊離した歯や骨とは様子が違う。より流れが遅いところで保存された肋骨。続きがあるかもしれないと、淡い期待が湧いてくる。長居もできないので、さっさと道具をバックパックにしまい、肩に担ぐ。同じバックパックが、さっきよりも軽く感じた。

つづく

小林 快次(こばやし よしつぐ)

1971年、福井県生まれ。1995年、米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年、米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。現在、北海道大学総合博物館准教授、大阪大学総合学術博物館招聘准教授。モンゴルや中国、米国アラスカ州、カナダなど海外での発掘調査を精力的に行い、世界の恐竜研究の最前線で活躍中。著編書に『恐竜時代I 起源から巨大化へ』『日本恐竜探検隊』(以上、岩波書店)、『モンゴル大恐竜 ゴビ砂漠の大型恐竜と鳥類の進化』『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』(以上、北海道大学出版会)など、監修書に『大人のための「恐竜学」』(祥伝社)、『そして恐竜は鳥になった 最新研究で迫る進化の謎』(誠文堂新光社)など多数。

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