第1回 恐竜化石は「歩いて探す」

「全身骨格」を探して

モンゴル南部、ゴビ砂漠にある恐竜化石の産地、ヘルミンツァフ。私たちがキャンプを設営したところ。

 モンゴル南部に広がるゴビ砂漠。そこに、ヘルミンツァフという恐竜化石の産地がある。2008年9月、ある日の朝9時、私はそこに立っていた。

 「ここで降ろして。キャンプから22キロ離れているから、ここから歩いて帰るよ」
 キャンプから歩いて化石を探すと遠くのエリアが探せないと考えた私は、早朝に車でできるだけ遠くに連れて行ってもらい、そこから歩いてキャンプに帰ることに決めた。正直、ちょっと遠いかなと思ったが、1日あれば帰れる距離だと思った。

 調査を始めて1週間が経っていた。キャンプ地の周りはある程度目を通していたし、調査を共にしている他の研究者と鉢合わせが多く、新しいものが見つかるような気がしなかった。その証拠に、この1週間、みんなが見つけるのは、元々つながっているはずの骨格から遊離してバラバラになった、歯や骨の化石ばかりだった。全身骨格なんて出る気配すらなく、みんな落胆していた。これは、もっと違う場所を、違う目線で探さなければと、ひそかに考えた。

 私はこの時、なぜ見つかるのは遊離した歯や骨だけなのかと、自分に問い続けていた。一緒に参加している研究者の動きを思い返してみると、みんなは歩きやすい平坦な砂岩の上をひたすら探していた。

 ここにある砂岩の層は、平坦で確かに歩きやすい。断片的なものではあるが、たくさんの歯や骨の化石も見つかる。2メートルごとくらいに、キレイな肉食恐竜の歯や指の骨が落ちている。これは歩いていて楽しい。しかし、これではいつまで経っても、全身骨格は見つからない。

 そこで、目の前の露頭(※)をよく見ると、平たい砂岩層の上に高さ10メートルくらいの泥岩(でいがん)層からなる急な斜面があり、人が歩いた形跡がほとんどない。斜面が急で、足場が悪いからだ。
 泥岩の地層は、砂岩の地層と違い、水の流れが遅い所で積もったものだ。みんなが探している砂岩は、比較的水の流れが速いところで堆積した砂からできている。そこに残る恐竜化石は水に流されてきているため、どうしても断片的になりがちだ。一方、泥岩の地層は水の流れが遅いところで堆積した泥からできていて、もし恐竜の死骸があれば、1体分丸ごと残っている可能性がある。恐竜の全身骨格を探すなら、ここを探す価値はあるだろう。確率はかなり低くなるが、見つかれば全身骨格の可能性がある。そこで私は、この泥岩の急な斜面を歩いてみることにした。

※露頭(ろとう) 地層や岩石が、土壌や植生に覆われず、直接地表に現れている場所