音楽の起源?(この動画はリズムがあってからの動きのみを紹介しています) BPMは1分間あたりのビート数。(Shinya Fujii et al.(2014) Precursors of Dancing and Singing to Music in Three- to Four-Months-Old Infants. PLoS ONE 9(7): e103192. doi: 10.1371/journal.pone.0103192より著者の許可を得て転載)

 ごろんと横になった3カ月の赤ちゃんがいて、ドラマーが叩くドラムの音が流れている。最初、赤ちゃんはぼーっとしているのだが、そのうちに手足を動かして例のムニャムニャ運動を始める。ふいにドラムの音と手足の動きが合ったかと思うと、すぐに調子が出てきてノリノリで踊っているふうになる。

 たしかに百聞は一見にしかず。

 ムニャムニャ運動をしているうちに、リズムと合う瞬間があって、いわばリズムへの「引き込み」が起き、行動が組織化されたみたいに見えるのだ。脳のリズムと身体と環境の相互作用から、二足歩行が生まれることも想起させる。

「3カ月の赤ちゃんって、音楽に対して体をリズミックに合わせて踊ることができるかというと、普通はできないんです。約100人の赤ちゃんを呼んできて、初めて1人、2人ぐらいでこういうすごくはっきりした現象が得られたのですが、動画を見ても、本当なのかと疑う研究者もいます。1歳とか2歳ぐらいになったら、音楽に合わせて体を揺すったりできるのは知られています。でも、こういう小さい段階で果たしてリズムに合わせて踊ることができるかって、今まで知られてなかったんです。これはドラム演奏を趣味にしている藤井進也さんがうちのラボで発見したものです」

 人間以外の動物で、いわゆるリズム知覚を持ち、リズムに合わせて体を動かすことができるものは少ないそうだ。チンパンジーやサルでも難しい、とのこと。一方、ヒトの大人はごく普通にできる。リズム知覚というのは、かなり人間的な行動なのだ。

「ですので、音楽の能力にかかわる起源の1つの発見かもしれないっていうふうに考えてます。音楽の起源ってすごくいろいろ研究があって、進化的な意味だとか、言語との関係だとか、いろんな議論が出てます。それぞれ面白いんですけど、この研究は大きな突破口になると思っています」

 なるほど、これも「赤ちゃんの脳・進化論」のピースになる発見なのだ。

 しかし、動画を見ている、それだけで頬が緩む。

 ストイックにひとつひとつステップを踏んで研究を進める多賀さんの研究に感銘しつつ、最後はやはり赤ちゃんのスウィートさにしてやられたのであった。

(写真クリックで拡大)

おわり

「研究室」に行ってみた。

当連載が本になりました! サバクトビバッタ、宇宙ベンチャー、バイオロボティクス、超重新元素合成、宇宙エレベーター、地理学の6つのテーマに絞り、川端さんが加筆修正をしたうえ、それぞれの研究者からのメッセージも加わっています。ぜひお手にとってみてください。
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多賀厳太郎(たが げんたろう)

1965年東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科教授。博士(薬学)。専門は発達脳科学。89年、東京大学薬学部卒。94年、同大学院薬学系研究科博士課程修了。京都大学基礎物理学研究所学振特別研究員、ボストン大学神経筋研究所博士研究員、東京大学教養学部基礎科学科助手などを経て、09年より現職。主な著作に『脳と身体の動的デザイン―運動・知覚の非線形力学と発達 (身体とシステム)』 (金子書房)がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。ノンフィクション作品に、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。 近著は、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)。本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider

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