シミュレーション上とはいえ、二足歩行が脳の自発的なリズムと、身体・環境との相互作用から自然と出てくること(自己組織化)が確認されていたというのは、非常に興味深い。多賀さんはこの研究を完成させた後、1994年にアメリカのボストン大学に、ポスドクとして滞在している。ボストンでは脳科学だけでなく、ロボット工学の研究者との交流もあり、二足歩行の自己組織化について大いに議論したそうだ。そこには、ボストン近郊にあるMIT(マサチューセッツ工科大学)の関係者もいた。のちに歩行ロボットで有名になるボストン・ダイナミクス社の創始者のグループは、まさにその時期MITで活動しており、多賀さんの研究成果は、彼らにとっても大いに刺激的だったのではないかと想像する。

 さらに言うと、本連載に登場していただいたチューリッヒ工科大学の飯田史也さんも、時期は違うがMITでポスドク時代を過ごし、二足歩行の研究や「生物に発想を得たロボット」の開発を進めている。このエピソードは、連載と同名の書籍『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)に収録されている。

 さて、多賀さんが、赤ちゃんの脳について考え始めたのは、帰国後、東京大学駒場キャンパスでの研究時代。

「二足歩行とか、ある機能を1つ決めて、そこで区切った説明をするのもいいけれど、それを支える脳自体がどうやって発達するのかとか、そういうことを知りたいと思ったんです。ちょうど成人のfMRIの研究が盛んになりつつある時代だったんですけれども、発達期の脳っていうのは、やっぱりまだブラックボックスだったんですよね。そこを知りたいとなると、自分でデータをとるしかない。それで、当時、開発されたばかりの光トポグラフィを使った乳児の研究にだんだんシフトしていったんです」

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