第6回 脳の発達の「グランドセオリー」を求めて
赤ちゃんの脳研究の第一人者である東京大学大学院教育学研究科の多賀厳太郎教授は、なぜこの魅力的なテーマにたどり着いたのか。
様々な驚きに満ちた赤ちゃんの脳の世界は、まだまだ世界的に探究が始まったばかりのようで、研究の沃野が広がっている。特に脳で起きていることを血流などから推定するやり方は、90年代にfMRI、さらに光トポグラフィが発展するまで、まっとうな方法がなかった。まさに脳という大海にこぎ出た大博物学時代、と形容するに相応しいと感じる。
多賀さんに研究の由来を問うと、意外な答えが返ってきた。
「実は、最初は二足歩行について研究していたんですよ」と。
二足歩行?
なにかロボットの研究を想起する。多賀さんの研究は脳にまつわるものだから、人工知能や制御工学などを通じてロボット研究と通底する部分があるのは当然にしても、二足歩行の研究から「赤ちゃんの脳」とはどんな道筋なのか。
「実は、僕、学部は薬学部でした。ちょうど80年代の後半で、その時に、当時としては先鋭的だった生命システムの見方を導入していたパイオニアである清水博先生に出会いました。自己組織化とか、そういう言葉が初めて生命システムに適用されてた頃です。あ、これこそ自分が知りたいことだって思って、研究室に入ったんです。二足歩行というのは、その時の研究です」
薬学部で二足歩行の研究! というのも驚きだが、後の研究テーマである「赤ちゃんの脳」とのつながりはどこなのだろう。
自発運動や自己組織化。そのあたりが、理解の鍵になるようだ。
「人間が歩いたりする機構は、脳がまず自発的なリズムをつくった上で、体とか環境とかと相互作用するプロセスがあります。それをコンピュータ・シミュレーションを使って、脳のリズムをつくる神経ネットワークと、二足歩行をするある意味ロボットのモデルみたいなものとつなげたんです。すると、脳と体と環境からいろいろ力を受けて、ひとりでに二足歩行できていく、つまり自己組織化されると発見しました」