(写真クリックで拡大)

「赤ちゃんの動きを見ていると面白いですよ」と多賀さん。

「生まれてすぐでもとにかく動いてるでしょう。こう手足をムニャムニャ、ムニャムニャというかんじで。あれって、そういうものだと見ていると不思議に思わず通り過ぎてしまいますが、なぜかって考えると非常に不思議です」

 多賀さんはムニャニムニャ行動を自らの手で実演し、その後で腕を組んで首を傾げた。

 たしかに! 赤ちゃんはムニャムニャ動いている。ああいう動き方は他ではなかなか見ない。もしも仮に、大人がベッドの上で同じことをしたら……相当気持ち悪い。

(写真クリックで拡大)

 赤ちゃんはああいう動きを、外界の刺激に反応してやっているようには見えない。多賀さんは「脳が自発的に活動して、それが体の動きの自発的な動きとしてあらわれる現象」としてとらえる。赤ちゃんをごろんと寝かせた上で、玩具のモビールを上に設置できるようにしてある区画を指さして、多賀さんは言った。

「ムニャムニャ動いているのをモーションキャプチャしたりして、動きの解析をしています。それをやりながら、じゃあ、外部の環境によって自発運動がどう変わるかというのも見たいわけです。それで、片手にひもをつけてモビールを動かせるようにします」

 なるほどそのためのモビールだったのか。お話を聞いている「赤ちゃん研究室」の一角にあったので、ずっと気になっていたのだ。

(写真クリックで拡大)

「赤ちゃんはわりとすぐに、自分が動けばモビールが動くというのは気づくんです。それが、2カ月、3カ月、4カ月というふうに見ていくと、差異が明確になりまして。2カ月の赤ちゃんは、ひもを付けると、確かにムニャムニャする動きは増えますが、全身でとにかく動かそうとする。3カ月になると足よりも手だけを動かし、4カ月になると片手だけとだんだん変わっていきます。これもさっきのジェネラルからスペシフィックっていう変化で、だんだん特化した動きに変わっていく発達の道筋と見ることができるんです」

 ムニャムニャ運動が、多賀さんがいう自発運動の例だとして、そこに環境からの刺激を与えると、次第にその目的に向かった運動を組織化していく。これは非常に興味深い。ムニャムニャ運動には、とにかく動いてみることでなにがしかのフィードバックを得て、自分の体の使い方を組織化している、といった役割があるのではないか、と想像した。あくまで、ぼくの素朴な感想である。

つづく

「研究室」に行ってみた。

当連載が本になりました! サバクトビバッタ、宇宙ベンチャー、バイオロボティクス、超重新元素合成、宇宙エレベーター、地理学の6つのテーマに絞り、川端さんが加筆修正をしたうえ、それぞれの研究者からのメッセージも加わっています。ぜひお手にとってみてください。
Amazonでの紹介はこちらからどうぞ。

多賀厳太郎(たが げんたろう)

1965年東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科教授。博士(薬学)。専門は発達脳科学。89年、東京大学薬学部卒。94年、同大学院薬学系研究科博士課程修了。京都大学基礎物理学研究所学振特別研究員、ボストン大学神経筋研究所博士研究員、東京大学教養学部基礎科学科助手などを経て、09年より現職。主な著作に『脳と身体の動的デザイン―運動・知覚の非線形力学と発達 (身体とシステム)』 (金子書房)がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。ノンフィクション作品に、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。 近著は、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)。本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る