ところが、である。どうやら冬季うつの患者さんではこの季節感知能力が残存しているらしいのだ。同じベセスダに居住する患者さんで調べたところ、夏と冬でメラトニン分泌時間に明瞭な差があったのだ。しかも、である。冬の分泌時間には健常者との間に差が無く、夏の分泌時間が有意に短くなっていたのである。
日照不足で発症することから光に対する感受性が低下しているイメージがあったが、むしろ敏感であったのだ。光に過敏であることが何故にうつ症状をもたらすのか詳細は不明である。しかし、秋から冬にかけての光環境の落差が何らかのトリガーを引いて、気分や食欲、睡眠に関わるセロトニン神経機能の低下をもたらしていると考えられている。
次に、日長時間や日照時間よりも、日照量が少なくなるのが問題なのではないかという意見が医療現場から湧き上がってきた。いくら夏の日長時間をシミュレートするのが効果的とはいえ、慌ただしい朝夕に数時間も光療法器の前に座っているのは大変である。もう少し負担を減らす方法はないだろうか。これが患者さんと治療者の悩みであった。そのため、朝だけ、昼だけ、時間があるときに行う、などさまざまな変法で光療法が行われるようになった。
その結果、光療法の時間帯を変えても効果に違いが無いのではないか? そのような印象を持つ治療者が増えていった。冬季うつが広く知られるようになった1980年代後半、私は新米精神科医として秋田で診療をしていた。冬季うつの患者さんをおそらく日本でも最も多く診察していたと思うが、やはり同じような印象を持っていた。「いつ浴びるか」より「浴びた量」だと。