第15回 光は「いつ浴びるか」より「浴びた量」 冬季うつのメカニズム
以上ご紹介してきたデータは何を意味するのであろうか。まとめてみよう。
まず、冬季うつの患者さんは光に対して敏感らしい。結果的に日長(日照)時間や日照量の季節変動を感知する能力が残っており、むしろ敏感に反応してうつ症状や過眠過食が発症していると考えられる。光環境のどの要素に反応しているのか。これはまだ不明な点もあるが、日照量の減少が大事な役割を果たしていることは間違いなさそうだ。
ちなみに冬季うつは病気なのか? という質問を受けることがあるが、冬季うつは間違いなくうつ病の一型である。精神疾患の国際診断基準でも気分障害の季節型、季節性感情障害などの診断名が明記されている。本稿ではもう少し馴染みやすい通名である冬季うつという名前を用いた。先にご紹介したように健常人でも気分や食欲、睡眠に季節変動が見られるが、冬季うつではさらに変動が大きく日常生活に支障が出るほどになる。そのような段階に至った場合、病気として診断される。
冬季うつ病の患者さんはどのくらいいるのだろうか。米国で行われた面接調査では「それまでの人生で罹患した人の割合(生涯有病率)」が0.4~1.0%、より高緯度のカナダでの調査では約3%であった。同じ時期のカナダのうつ病(大うつ病)の生涯有病率が26%なのでうつ病の1/10が冬季型であると試算されている。第13回でご紹介した簡易診断スケールであるSeasonal Pattern Assessment Questionnaire (SPAQ)を使った調査では「調査時に罹患している人の割合(時点有病率)」は北国で3~4%、全国平均では1%であった。冬季うつは決して稀な疾患ではない。今そこにある病気なのである。
冬季うつの発症メカニズムや光感受性の分子メカニズムなどについて現在も精力的に研究が進められている。冬季うつで悩む方に少しでも早く朗報が届けられるよう私たちも微力ながら頑張っている次第である。
今年も睡眠の都市伝説をバサバサと斬って参ります。お楽しみに。
皆様にとって新年の日差しが明るく暖かいものでありますように。
つづく

『8時間睡眠のウソ。
日本人の眠り、8つの新常識』
著者:三島和夫、川端裕人
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(イラスト:三島由美子)
三島和夫(みしま かずお)
1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。
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