第15回 光は「いつ浴びるか」より「浴びた量」 冬季うつのメカニズム
旧年の話題で恐縮だが、2014年の冬至は12月22日であった。今年は冬至と新月が重なる19年に一度の朔旦冬至(さくたんとうじ)で、昼夜を通して最も明かりが少ない1日らしい。これ以降は明るくなるばかりということでお目出度い日とされているらしいが、暗いのが苦手な冬季うつの方にとっては迷惑この上ない。縁起物のカボチャはトリプトファンをたっぷり含んでいるので、日光浴と合わせて冬を乗り越えていただきたい。
これまで2回にわたり日照時間の話ばかりしてきたが、実は冬季うつの発症に「日長」と「日照」のどちらが大事か? というかなりマニアックな科学論議がされてきた。この2つの違い、お分かりですか?
日長時間とは日の出から日没までの時間である。一方、日照時間は1日のうちで「直達日射量」が120W/m2以上になる時間と定義される。ざっくりと言うと直射日光で物の影ができる程度の日差しが出ている時間である。日長時間と日照時間は概ね比例するが、もう1つ日照には「量」という考え方がある。日照時間は同じでもお天気次第で日照量は大きく異なってくる。
冬季うつは高緯度地域でよく発症することが疫学調査ではっきりしたので、当初は日長時間の大きな季節変動が主な病因と考えられていた。緯度が高くなるほど日長時間の季節変動が大きくなるからだ。日長時間は夏至で最長、冬至で最短となり、札幌では4時間半もの変動が生じる。
冬季うつに有効な高照度光療法も朝と夕方に数時間ずつ太陽光に近い強い光を浴びる、すなわち夏季の「日長時間」をシミュレートするという極めて単純な発想から始まった。人工光でニセの日の出と日没をでっち上げ、脳と体を夏と勘違いさせようというのである。ジョークのようなその試みは大成功した。1980年代初めのことである。速効性があり、治療効果の大きい患者さんでは数日でうつ症状が改善する場合もある。
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