第4回 赤ちゃんの脳の中を見てわかった「発達の法則」

 最初はどんな刺激にも、脳の幅広い場所が活動しやすい。しかし、時間とともに、この刺激はここ、というふうに脳の中での役割分担ができ、特殊化していく。

「我々は、これを『General to Specific』(一般から個別へ)というふうに呼んでいます。なにも反応しない状態からだんだん反応するようになるのか、それとも逆にむしろ何でも反応してたんだけど、そのうち特別なものにだけ反応するようになっていくのか。これは実は発達についての大きな問題です。私たちの研究は、比較的ジェネラルなものに対しての反応性から、よりスペシフィックなものへの反応性へと脳は変わっていくっていう、発達の一般的なプロセスを示しているのだと考えています」

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 発達していくというのは、「できなかったことができるようになる」というふうに見えるから、「ゼロから出来るようになる」と感じがちだと思う。でも、実際のところ、何にでも反応する状態から、個別性を獲得していく「General to Specific」が一般的ではないか、というのだった。これは、赤ちゃんの脳が、生後しばらくの間でシナプスを大量につくって、そのあとは刈り込んでいくことと整合性がある話だ。

 急激に発達中の赤ちゃんは、我々大人が知らない(忘れてしまった)経験世界を生きている。それがどんなものなのかと、大いに興味をそそられる。

「そういえば、共感覚ってよく話題になりますよね」と多賀さんは言った。

「感覚間の統合の問題で、例えばある音を聞いたときに、その音に色が付随して見えるっていうようなケースがあるとよく知られてると思います。その1つの説明として、生まれた頃、脳の広い場所がワーッと反応する状態があって、それが発達期に刈り込まれて特化しないまま残ってしまうと、成人になっても発達の初期と同じように、聴覚情報に対して視覚的な活動が生じたりするとか」

 共感覚というのは、大人になってみると、ごく一部の感覚についてしか出てこないものだ。それが、もっと多くの様々な感覚が、同時にわーっと体験されるというのが赤ちゃんなのかもしれない。本当、ぼくたちヒトは、赤ちゃんの頃は、感覚の洪水のような、結構、すごい時期を過ごしていたのだと感慨すら覚える。

つづく

「研究室」に行ってみた。

当連載が本になりました! サバクトビバッタ、宇宙ベンチャー、バイオロボティクス、超重新元素合成、宇宙エレベーター、地理学の6つのテーマに絞り、川端さんが加筆修正をしたうえ、それぞれの研究者からのメッセージも加わっています。ぜひお手にとってみてください。
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多賀厳太郎(たが げんたろう)

1965年東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科教授。博士(薬学)。専門は発達脳科学。89年、東京大学薬学部卒。94年、同大学院薬学系研究科博士課程修了。京都大学基礎物理学研究所学振特別研究員、ボストン大学神経筋研究所博士研究員、東京大学教養学部基礎科学科助手などを経て、09年より現職。主な著作に『脳と身体の動的デザイン―運動・知覚の非線形力学と発達 (身体とシステム)』 (金子書房)がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。ノンフィクション作品に、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。 近著は、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)。本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider