ウィルは、本当に信じられないといった様子で、メスナーと自分のことが載っているページを、交互に開きながら、まじまじと見つめていました。

 そして、そのとき、以前ぼくに言ったのと、同じ忠告をくり返したのです。

「憧れたり、尊敬するのは大切なことだ。でも、ときとしてそれは壁になる。そのことばかりを考えていたらだめだ。大切なのは、自分の道を見つけることだ」

 ウィルは、その雑誌を1冊、その場でプレゼントしてくれました。

 ぼくは、すぐさま、サインをしてほしいと、お願いしました。

 すると、ウィルは、近くのペンをとって、慣れた手つきで、さらさらとサインをしました。

 ウィルのサインのわきに添えられたひとこと。

 それは、「Follow Your Dreams.(=自分の夢を追え)」でした。

 ホームステッドでの滞在も5日目を終えようとしていた8月18日。

 いつものように、キャッスルの2階で、床張りを手伝っていると、ブレットが迎えにきてくれました。

 クリフハウスに戻ると、帰国まで、もうあと1週間でした。

 心はすでに、日本に戻ることで一杯でした。

 <ずいぶんと遠いところまで来てしまった……>

 まだまだずっといたいというよりは、いちど日本に戻りたいという気持ちが勝っていました。

 ホームシックではなかったと思います。

 ただ、あまりにも多くのことがありすぎて、心が受けとめられる量を超えてしまったのかもしれません。

 とにかくいまは休息が必要で、次の準備のためにも仕切り直しがしたい……それが、ぼくの正直な気持ちでした。

 何かを成し遂げたわけではないけれど、次の目標と課題がみえるところまではやりきった……そんな実感がありました。

つづく

大竹英洋

大竹英洋(おおたけ ひでひろ)

1975年生まれ。写真家。一橋大学社会学部卒業。1999年に米国のミネソタ州を訪れて以降、北アメリカ大陸北部に広がる湖水地方「ノースウッズ」の森に魅せられ、野生動物や人々の暮らしを撮り続けている。主な著書に『ノースウッズの森で』(「たくさんのふしぎ傑作集」)、『春をさがして カヌーの旅』(「たくさんのふしぎ」2006年4月号)、『もりのどうぶつ』(「こどものとも 0.1.2.」2009年12月号)(以上、すべて福音館書店)などがある。また、2011年3月NHK BSの自然ドキュメンタリー番組「ワイルドライフ カナダ ノースウッズ バイソン群れる原生林を行く」に案内人として出演。近著は「森のおく 湖のほとり ノースウッズを旅して」(月刊 たくさんのふしぎ 2012年 09月号)
本人によるブログは「hidehiro otake photography」

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