第84回 自分の道

 ブルーベリー・アートフェスティバルが終わったとたん、ずいぶんと時間が早く進んでいくような気がしました。

 初めてミネソタにやってきたとき、初めてイリーについたとき、そして、初めてカヌーを水に浮かべたとき……すべてが目新しくて、時間がゆっくりと流れていった。

 目に映る風景や、空気の肌触り、一瞬の心の動きまでもが、克明に脳裏に刻まれていくのを感じました。

 しかし、いま振り返ってみても、7月末からの記憶は、何か大きなイベントがあったとき以外、旅の前半部分ほど鮮明に思い出すことができないのです。

ノースウッズの北部、森林限界からツンドラへの移行地帯であるハドソン湾南岸。そこには、ホッキョクグマの中でも最も南に生息するグループがいる。アザラシの狩りに海氷を必要とする彼らは、11月中旬から下旬にかけて、ハドソン湾が再び氷に覆われるのを、じっと待っているのだ。(写真クリックで拡大)

 こんなふうに感じるということはきっと、旅の折り返し地点を、とっくに通りすぎてしまったということなのでしょう。

 初めての道をゆくときは、時間がゆっくりと進み、細部まで視界に入ってくる。

 それなのに、帰りの道のりは、なぜか短く感じてしまうことと、よく似ているのかもしれません。

 さらに、8月に入ると、旅の終わりを強く意識するようになりました。

 帰国便のフライトは25日なので、まだひと月弱が残っています。

 ずっとずっと先のことだと思っていた帰国の日。

 それが、カレンダーの同じページに記されているというだけで、妙にそわそわして、落ち着かない自分がいました。

 それが原因というわけではなかったけれど、8月に入った最初の日、ぼくは、朝から緊張していました。

 じつはその前日、親に頼んで日本から送ってもらった調味料が、レイヴンウッド・スタジオに届いたのです。