第84回 自分の道
ブルーベリー・アートフェスティバルが終わったとたん、ずいぶんと時間が早く進んでいくような気がしました。
初めてミネソタにやってきたとき、初めてイリーについたとき、そして、初めてカヌーを水に浮かべたとき……すべてが目新しくて、時間がゆっくりと流れていった。
目に映る風景や、空気の肌触り、一瞬の心の動きまでもが、克明に脳裏に刻まれていくのを感じました。
しかし、いま振り返ってみても、7月末からの記憶は、何か大きなイベントがあったとき以外、旅の前半部分ほど鮮明に思い出すことができないのです。
こんなふうに感じるということはきっと、旅の折り返し地点を、とっくに通りすぎてしまったということなのでしょう。
初めての道をゆくときは、時間がゆっくりと進み、細部まで視界に入ってくる。
それなのに、帰りの道のりは、なぜか短く感じてしまうことと、よく似ているのかもしれません。
さらに、8月に入ると、旅の終わりを強く意識するようになりました。
帰国便のフライトは25日なので、まだひと月弱が残っています。
ずっとずっと先のことだと思っていた帰国の日。
それが、カレンダーの同じページに記されているというだけで、妙にそわそわして、落ち着かない自分がいました。
それが原因というわけではなかったけれど、8月に入った最初の日、ぼくは、朝から緊張していました。
じつはその前日、親に頼んで日本から送ってもらった調味料が、レイヴンウッド・スタジオに届いたのです。