アンターセー湖に到着してから4日かかり、やっと私たちのキャンプ地が出来上がった。

 疲れ果てていたけれど、天候が急変する前に1つでもテントを建てなければならなかった。テントを設営していると、私たちが到着してから遅れること1時間半、途中で私たちが追い越した雪上車隊がやってきた。1時間かけて大量の荷物を降ろし、その後も設営作業が深夜まで続いたが、なんとかみな寝る場所とお湯を沸かす設備だけは整えた。

 深夜には空が曇り、風速20m/sを超える強風が吹き始め、気温はマイナス20℃に下がっていた。クタクタの状態で寝袋に入ったが、風でテントがギシギシバタバタときしむ音が止むことはなく、テントが飛ばされてしまうんじゃないかという心配と寒さで、ほぼ一睡もせずに朝を迎えた。その間、何度か外に出ては、テントの張り綱が緩んでいないかチェックした。

 到着翌日はずっと強風が続いていた。1日経ってもまだ私の手にはいつもの1割程度の力しか入らなかったが、幸い、悪天のおかげで少しゆっくりと過ごせた。ただ、その夜も強風の音と寒さであまり眠れなかった。アンターセー湖に到着して3日目には天候が回復傾向になり、夕方には晴れ間が広がった。

 ドイツのノイマイヤー基地から毎日届く天気予報によると、これから3日間は好天が続くということだった。到着から4日間かけて、なんとかキャンプ地のテント設営や生活・調査の基盤を整える全ての作業を終えた。
 やっと明日から調査が開始できる。私の右親指に変なしびれは残っていたが、もうすっかり手の力は戻っていた。

廣川まさき

田邊優貴子(たなべ・ゆきこ)

1978年、青森市生まれ。植物生理生態学者、陸水学者。博士(理学)。2006年京都大学大学院博士課程退学後、2008年総合研究大学院大学博士課程修了。早稲田大学 高等研究所・助教を経て現在は、国立極地研究所・助教。小学生の頃から極北の地に憧れを抱き、大学4年生のときには真冬のアラスカ・ブルックス山脈麓のエスキモーの村で過ごした。それ以後もアラスカを訪れ、「人工の光合成システム」の研究者から、極地をフィールドにする研究者に転身する。 2007~2008年に第49次日本南極地域観測隊、2009~2010年に第51次隊に、2011~2012年に第53次隊に参加。2010年夏、2013年、2014年夏には北極・スバールバル諸島で野外調査を行うなど、極地を舞台に生態系の研究をしている。2014年~2015年の冬(南極の夏)に、二つの隊に参加し、南極の湖沼を調査した。著書に『すてきな地球の果て』(ポプラ社)。
本人のホームページ:http://yukikotanabe-online.webnode.jp/
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