アンターセー湖はもう目の前。切り立った山岳地帯が迫ってきた。

到着

 さて、すでに気合いだけで走っていた私だが、やっと目的地が見えてきたことによって、「とにかくまだこの気合いを保ってゴールまで走り続けることを誓います!」という自分の心の声が聞こえてきたような気がした。

 グルーバー山地に近づくと、これまで以上に裸氷のデコボコが鋭く大きくなった。信じられないくらい手と体にこたえる。ゴールを目の前に、とどめを刺されているような気分だ。残り少ない力でなんとかアクセルを保ち、時速5kmくらいでゆっくり進んでいった。デコボコは激しくなったものの、山の近くでは風が格段に弱まり、急に暖かくなってきた。山が風を遮り、露出した黒い地面が熱を吸収しているのだ。

 とは言え、寒さよりも、このにっくきハードデコボコがこの時の私にとって最大最強の敵であって、スノーモービルの旅の中で今思えばそこが一番の難所だった。橇に載せている荷物の中の電子機器類がすべて壊れたに違いないと思った。

 この氷地獄を走ること2時間。急に氷のデコボコが小さくなって、やたらと走りやすくなった。表面が氷なのは変わりないのだが、やたらとフラットなのだ。さっきまでの氷地獄どころかこれまで走ってきたのと全く感触が違う。氷の色も違うし、なんだここは?? と思いながら走っていると、前を走っていたデイルがピタリと停まった。

「Lake Untersee!!」

 2014年11月16日18時過ぎ、ノボラザレフスカヤ基地を出てから飲まず食わずの11時間。休憩時間は合計してもせいぜい5~6分ほど。ついに私たちはアンターセー湖の上に立った。みな、急にスピードを上げ、平らな湖を横切り、湖畔のキャンプ地でスノーモービルを停めた。

 エンジンを止めると、右手に力が入らない上に酷くしびれていて、出発時にナディアから受け取ったサンドイッチをザックから取り出すだけでとても時間がかかった。朝6時に朝食のミルク粥を食べて以来、今日は何も口に入れていない。岩に腰掛け、低温で固くなったサンドイッチをモグモグとほお張った。目の前には切り立った山々がそびえ立ち、こんな内陸なのに真っ白なユキドリたちが忙しそうに空を舞っていた。

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る