第2回 急激に成長する赤ちゃんの脳で起きていること

 さて、「赤ちゃん研究室」には、測定が行われる録音スタジオのようなブースがあって、画像を提示するモニタや音響装置など、視聴覚系の機材が一通り揃っていた。光トポグラフィとは別の測定装置として、脳波のセンサーやアイトラッカー(視線を追いかけるもの)もあった。また、視聴覚ブースの外の一角には、赤ちゃんをごろんと寝かせられるようになっており、上にモビール(玩具)が取り付けてあった。

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 ちょうど生まれたばかりとおぼしき赤ちゃんのリアルな人形が、ブースの中に寝かせてあった。そのサイズ感といい、質感といい、本当にリアルで、抱き上げると、まさにスウィートな気分になった。本当にここは、日々、赤ちゃんがやってきて、喃語や笑い声を響かせつつ(もちろん、時には泣きつつ)、過ごす空間なのだとリアルに想像できた。

「こういう人形って、頭につけるセンサーですとか、研究を考えるのに必要なんですよ。やっぱり実際の赤ちゃんを想像して、どうやればいいかとか。目の前に赤ちゃんがいる気持ちになって考えないと、なかなかデザインできなかったりするんです」

 やっぱり、そういうものだ。赤ちゃんって「小さいヒト」だけれど、色々な意味で違った存在だ。また、赤ちゃんがいる空間というのも独特で、我々は近くに赤ちゃんがいるだけで、なにかのスイッチを押されて「赤ちゃんがいるぞモード」になるのではないかと感じる。リアルな人形はそのスイッチを押してくれるわけである。

 そして、適切に設計された光トポグラフィ装置などを使った研究で、多賀さんはどんなことを解明しているのか──。

ブースの人形を抱っこする多賀さん。(写真クリックで拡大)

つづく

「研究室」に行ってみた。

当連載が本になりました! サバクトビバッタ、宇宙ベンチャー、バイオロボティクス、超重新元素合成、宇宙エレベーター、地理学の6つのテーマに絞り、川端さんが加筆修正をしたうえ、それぞれの研究者からのメッセージも加わっています。ぜひお手にとってみてください。
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多賀厳太郎(たが げんたろう)

1965年東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科教授。博士(薬学)。専門は発達脳科学。89年、東京大学薬学部卒。94年、同大学院薬学系研究科博士課程修了。京都大学基礎物理学研究所学振特別研究員、ボストン大学神経筋研究所博士研究員、東京大学教養学部基礎科学科助手などを経て、09年より現職。主な著作に『脳と身体の動的デザイン―運動・知覚の非線形力学と発達 (身体とシステム)』 (金子書房)がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。ノンフィクション作品に、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。 近著は、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)。本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider