第2回 急激に成長する赤ちゃんの脳で起きていること

 さて、赤ちゃんの脳でシナプス形成が誕生後に爆発的に起きている時期は、実は新生児が新しい環境、つまり生まれいでたこの世界で様々な能力を獲得していく時期でもある。

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「シナプスが急激に増える最初の2カ月から6カ月ぐらいまでの間に、いろんな基本的な知覚とか運動機能が次々と発達していきます。行動であれば、まず首がすわってお座りして、ハイハイして、立ち上がって歩くっていうのが半年から1年にかけてダーッとこう出てきますね。言葉が出るのはちょうど1年を超えたところからですが、最初の1年の間にも知覚と理解の側面において、ずっと進行していまして、それが表出としてあらわれてくるのがだいたい1歳ぐらいからということになるわけですね。その他のいろんな能力が、最初の1年に次々に出てくるっていうのは、特に発達心理学とか、行動を研究してる人がもう次々と明らかにしています。その話と、じゃあ今のこの生後の脳の変化っていうところでどこが一番キーになるかっていうと、やっぱりある程度シナプスが形成されて、ネットワークができるということと関係しているだろうっていうのが大まかな脳のとらえ方なんです」

 ここまできてやっと、様々な能力を獲得していく時期の赤ちゃんの脳では何が起きているのか、という話題に入っていける。

 1990年代まで、赤ちゃんの脳がどのように活動しているのか、測る方法は主に脳波だった。PET(陽電子放出断層撮影法)などの方法もあったものの、放射性同位体を注入する必要があるため健常な赤ちゃんには使えなかった。脳波は活動にともなう電場の全体的な変化を捉えることができるが、脳の部分部分での活動を知ることは難しい。

 そんな中、fMRI(機能的磁気共鳴イメージング)や、光トポグラフィ(近赤外分光法)という方法で、脳の中の血流を見ることができるようになった。脳は栄養を蓄積できない器官なので、活動が活発になった部位にはすぐに送り込まれる血液の量が増える。それを見れば、脳のどの部位の活動がさかんになっているか確認できるのである。

 多賀さんは、主な研究の方法として後者、光トポグラフィを選んだ。日本の小泉英明ら(日立中央研究所)のグループによって開発され、すでに成人の脳科学では有効性が確かめられて、研究を画期的に前に押し進めた手法だ。今では研究のみならず医療の現場でも使われている。fMRIよりも装置が簡便で、赤ちゃんに使ってもらうのにも適していた。多賀さんは赤ちゃん用の光トポグラフィ装置を開発することで、研究を新たなステージに押し上げた。