第14回 もっとバナナ を! 冬季うつの自己治療

 通常、うつ状態では食欲は低下する。しかし、冬季うつの患者さんはひどく甘い物を欲しがり、体重が増加する。1日中チョコレートを手放せない、夜間に菓子パンを大量に食べてしまうなどの不思議な症状がみられる。甘い物(糖質)、すなわち炭水化物をとることがセロトニンとどのように関係するのだろうか。

(イラスト:三島由美子)(画像クリックで拡大)

 食物から摂取されたトリプトファンは血液で脳まで運ばれる。トリプトファンが血管内から脳内にどれだけたどり着けるかは、血管壁を乗り越える時の競争相手であるその他のアミノ酸(チロシンやロイシンなど)との濃度比に大きく左右される。専門的な説明は割愛するが、炭水化物を摂取すると膵臓から分泌されるインスリンの影響で血中のトリプトファンの比率が高まり、脳内にたどり着く割合が増加することが明らかになっている。

 一言で言えば、甘い物を食べると脳内のセロトニン濃度が高まるのである。しかも数時間のうちに。したがって、冬季うつにみられる炭水化物の欲求は、無意識的に行っている自己治療行動self-medicationであるとも言える。先に紹介したLambertらの研究と合わせて考えると、朝に炭水化物をしっかり取って、日照を浴びると午前中に気分が回復するのに効果的であることが分かる。

 実際、冬季うつの患者さんに糖質リッチな食事を摂らせると、高タンパク食摂取時に比較して活力と多幸感が増大する。間接的に抗うつ薬であるSSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)を服用しているようなものだ。女性がイライラしているときに甘味を求めるのも似たような機序ではないだろうか。

 今日はクリスマス。辛いことがあった人、寂しい人は、昨晩のクリスマスケーキに引き続き、今日もバナナケーキを食べてハッピーな気分になりましょう。メリークリスマス!

 次回は本シリーズの最終回で、我々が失ってしまった季節を知る能力と冬季うつとの関係についてご紹介する。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。