第14回 もっとバナナ を! 冬季うつの自己治療

 日照時間が脳内セロトニン機能を調整するメカニズムも徐々に明らかになってきた。目から入った光刺激は脳幹部にある「縫線核(ほうせんかく)」という神経核(神経細胞の集まっている場所)に到達する。この神経核はセロトニンを合成して全脳に幅広く分布させる役割を担っていて、光はその活動を活発にさせるのだ。日照による気分のアップダウンはこの神経回路を介して調整されているらしい。

 冬季うつには人工的な高照度光を浴びる光療法が有効で、6~7割の患者さんに効果がある。冬の日照不足を補うというシンプルな発想から生まれたユニークな治療法で、ご存じの方も多いだろう。光療法には欠かすことのできない大事なパートナーがいる。セロトニンを生成するための原料となる必須アミノ酸、トリプトファンである。

 必須アミノ酸とは、体内で合成できず栄養分として摂取しなければならないアミノ酸のことで、トリプトファンも9種類ある必須アミノ酸の1つである。したがって食事中のトリプトファンが不足するといくら日照や人工光で刺激しても縫線核内で十分量のセロトニンが合成できなくなり、光療法の効果が発揮されないのだ。

 たとえすでに光療法の効果がでている患者さんでも、トリプトファンが含まれない食事に切り替えるとわずか24時間で血中トリプトファン濃度は著しく低下し、同時にうつ症状が再燃してしまうことも分かっている。トリプトファンは次から次へとセロトニンを合成するのに使われるため、在庫を溜め込むことはできないのだ。

 トリプトファンはバナナやプロセスチーズ、豆乳などに多く含まれる。栄養バランスのよい食事を摂っていればトリプトファンが不足することはない。しかし脳内セロトニン機能が低下している冬季うつの患者さんは、できるだけ多くのトリプトファンを体内に(そして脳内に)取り込むために無意識のうちにある行動を取るようになる。それは「甘いもののドカ食い」である。

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