第14回 もっとバナナ を! 冬季うつの自己治療

 ここにメルボルンの研究者であるLambertらが行った興味深い研究がある。彼らは101名の健康ボランティアを集め、首の奥にある動静脈から血液を採取して脳内でのセロトニン利用率(代謝回転)の季節変動を算出したのだ。この研究が行われた2000年当時は、このような凄まじい方法をとらなければ脳内のセロトニン利用率は正確に測定できなかったのだ。彼らの努力の結果判明したのは健康な人でも冬に脳内セロトニン利用率が顕著に低下すると言うこと。

 その後、PET(positron emission tomography:陽電子放出断層撮影)を用いた先端的研究により、冬に脳内のセロトニン神経機能の活動が低下することが確定した。

図1:脳内セロトニン代謝回転の季節変動(Lambertらの研究から引用、2002年)
この研究は南半球にあるオーストラリアのメルボルンで行われたため季節と月が逆転している。冬季に脳内セロトニン利用率が著しく低下していることが分かる。実はセロトニン利用率は季節というより検査当日の日照時間に相関していた。(イラスト:三島由美子)(画像クリックで拡大)

 セロトニンはうつ病の発症に関連する神経伝達物質として有名だが、うつ病の中でもとりわけ冬季うつと密接な関連がある。セロトニン神経機能の低下は気分の悪化だけではなく過眠や過食の原因になり、まさに冬季うつの症状に合致するからである。健常人でも冬に食欲が増し睡眠時間が長くなる背景にはこのような脳内セロトニン機能の季節変動が関わっているのである。

 先のLambertらの研究ではもう1つ大事な発見があった。脳内セロトニン利用率は気温や降雨量などとは関係せず、日照時間、とりわけ「検査当日の朝の日照時間」と強く関連していることが明らかになったのである。

 このデータが意味するところは大きい。太陽光はその日のうちに(おそらくわずか数時間のタイムラグで)脳内セロトニン機能を調整している可能性が高まったからである。これが本当であれば、梅雨時に冬季うつ症状が再燃したり、例え夏でも天候に気分が左右される現象が容易に説明できる。いや、我々だって朝から天気がドンヨリしていると気分も沈み込むではないか。あれは曇天や雨という視覚や心理作用だけではなく、非視覚性作用の産物でもあるのだ。

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