第1回 赤ちゃんの脳の構造はほとんど完成している

「大ざっぱに、脳の構造的な発達と機能的な発達に分けて考えましょう。脳ってだいたい、左右に分かれてて、それぞれがシワシワになって折りたたまれたような構造になってます。その表面に灰白質という、要するに神経細胞がいっぱい詰まった層があるわけです」

 多賀さんは、コンピュータの画面で、図表をみせてくださった。受精後2カ月から、胎児の脳の形状の変化を追い、新生児、大人と比較したものだ。

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これは受精後約半年から新生児までと、大人の脳の比較。(By Van Essen Lab(Washington University in St. Louis), in collaboration with Terrie Inder, Jeff Neil, Jason Hill, and others.)(画像クリックで元サイトへ)

「胚発生からみていって、受精後2カ月でほとんどヒトの脳の形になっています。だいたいここに大脳があって、脳幹があって、小脳があってとかっていう形ができている。それが、受精後20週、ちょうど胎児の中盤ぐらいで、さらにこう、しわが入ってくるんですね。どんどん大きくなりながら、しわができてきて、生まれる頃には、大きさはともかく、形だけに注目すると、もうほとんど大人と一緒です。ここが前頭葉で、ここが側頭葉で、ここが後頭葉とか。よく『勉強するとしわが増える』と言われますけど、あれは嘘です。しわ自体は、もうほとんどできているっていう状況なんです」

 勉強しても、脳のしわは増えない。新生児の時点ですでにだいたい出来上がっている。これは覚えておいてよい話かもしれない。

 さらに出来上がっているのは、しわ、だけではない。

「脳の外形を見ましたが、じゃあ、中のほうでどういうネットワークがあるかっていうことで、新しいイメージングの方法などで見てやると、かなり成人に近いんです。体を動かすための大脳の神経線維とか、左右の脳をつなぐ脳梁ですとか、そういったようなものの配置がほとんど終わってると。ビルの工事にたとえると、ビルのおおまかな壁とか、部屋はもうできています。それどころか、部屋と部屋の間に大量のネットワークケーブルが張りめぐらされているんです」

 人間の脳は、新生児の段階で、多くのしわをもった形状といい、内部のネットワーク構造といい、大人の脳と変わりない域まで完成しているのだ! とても「白紙」とはいいがたい発達状態なのであった。

新生児の時点で脳の構造はほぼ完成。勉強してもしわは増えません。(写真クリックで拡大)

つづく

「研究室」に行ってみた。

当連載が本になりました! サバクトビバッタ、宇宙ベンチャー、バイオロボティクス、超重新元素合成、宇宙エレベーター、地理学の6つのテーマに絞り、川端さんが加筆修正をしたうえ、それぞれの研究者からのメッセージも加わっています。ぜひお手にとってみてください。
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多賀厳太郎(たが げんたろう)

1965年東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科教授。博士(薬学)。専門は発達脳科学。89年、東京大学薬学部卒。94年、同大学院薬学系研究科博士課程修了。京都大学基礎物理学研究所学振特別研究員、ボストン大学神経筋研究所博士研究員、東京大学教養学部基礎科学科助手などを経て、09年より現職。主な著作に『脳と身体の動的デザイン―運動・知覚の非線形力学と発達 (身体とシステム)』 (金子書房)がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。ノンフィクション作品に、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。 近著は、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)。本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider