第2回 飛行機で南極大陸へ

無事南極大陸に到着。

 離陸から6時間半、強い向かい風のために予定飛行時間より30分遅れて、大きな音と振動とともに、イリューシンはついに氷の上に着陸した。その瞬間、機内では歓声と拍手が起こった。

南極大陸

 私の方は、いまだ本当に南極大陸に到着したのかどうか半信半疑だったが、右前方のドアがゆっくりと開け放たれると、眩しい光が薄暗い機内に入り込んできた。私はニット帽とネックゲイターと分厚い手袋を装着し、ザックを背負い、サングラスをかけ、かばんを持ってゆっくりとイリューシンの外に出た。その途端、凍てつくような風が横から吹き付けてきた。辺りを見渡すと、どこまでも果てしなく雪と氷だけが続いていた。ここには空港らしき建物も何もない。私が立っているのは、ただただ白の世界だった。

 ケープタウンを出発して、たったの6時間半。さっきまで初夏のケープタウンの暖かく心地よい風に吹かれ、免税店にいたのが嘘のようだ。何もかもが大きくかけ離れていた。南極へやってくるのに6時間半という時間は、私にとってずいぶん急だったようだ。異次元の世界にワープしたような気分だった。けれど、どこか心の片隅に懐かしさも感じていた。またここに戻ってきたのだ。
 兎にも角にも、こうして私はついに南極大陸に到着した。

 貨物室から大量の物資が降ろされること3時間、イリューシンは氷の上を猛スピードで滑走し、再びケープタウンへ向けて飛び立っていった。インド人研究者たちも、冒険家も、観光ツアー客たちも、いつの間にかいなくなり、私たち6名は白の世界にポツンと残された。凍てつく風を遮るものがない場所で、私たちは荷物の陰に隠れて風をやり過ごしながら、ノボラザレフスカヤ基地からの迎えを待った。ほどなくして、やって来たトヨタのピックアップ型自動車とスノーモービルの橇に荷物とともに乗せられ、15分ほどで基地に到着した。

 これから数日間、基地に滞在して調査行に向けた準備に取りかかる。それが終われば、いよいよ目的の地、アンターセー湖に向かって出発する。
 私の心の中にあった期待と緊張はそのどちらもが明らかに大きくなっていた。

大陸氷床に着陸したイリューシンはとてもカッコイイ。
廣川まさき

田邊優貴子(たなべ・ゆきこ)

1978年、青森市生まれ。植物生理生態学者、陸水学者。博士(理学)。2006年京都大学大学院博士課程退学後、2008年総合研究大学院大学博士課程修了。早稲田大学 高等研究所・助教を経て現在は、国立極地研究所・助教。小学生の頃から極北の地に憧れを抱き、大学4年生のときには真冬のアラスカ・ブルックス山脈麓のエスキモーの村で過ごした。それ以後もアラスカを訪れ、「人工の光合成システム」の研究者から、極地をフィールドにする研究者に転身する。 2007~2008年に第49次日本南極地域観測隊、2009~2010年に第51次隊に、2011~2012年に第53次隊に参加。2010年夏、2013年、2014年夏には北極・スバールバル諸島で野外調査を行うなど、極地を舞台に生態系の研究をしている。2014年~2015年の冬(南極の夏)に、二つの隊に参加し、南極の湖沼を調査した。著書に『すてきな地球の果て』(ポプラ社)。
本人のホームページ:http://yukikotanabe-online.webnode.jp/
本人のfacebook:https://www.facebook.com/ukkopu