第116話 森の中で朽ちてこそ、定めか……

 結局、私はこの橇の中では眠れなかった。

 すっぽりとはまり過ぎて、寝返りが打てないどころか、脱出するのも一苦労。

 しばらく寝てみただけでも、体じゅうの筋肉が凝ってきて、人間というのは、じっとしていられないものだなあ、とあらためて感じた。

 トーニャのところで一緒に寝かせてもらうことにして、橇から這い出ると、

「じゃあ、私が橇で寝るわ!」

 と、トーニャが言う。

 が、どう考えても、私より体が大きいトーニャが、橇に収まるワケがない。

 それでも、橇の中で寝ると言うから、私は雪上キングサイズベッドを手に入れ、寝転んだ。

 やはり雪上となると、枝葉を敷いていても冷たさが伝わってくる。

 それも仕方がないと受け入れ、寝袋に包まっていると、今度は、頭が外気にさらされていることで、頭が冷え過ぎて、キーンとするような軽い頭痛がしてきた。

 口から吐く息が、寝袋の生地に付着して凍りついている。

 冬の野宿は、どうしたって寒さからは逃れられない。

 けれど、私は疲れ過ぎていたためか、体が地面に沈んでいくように重くなり、眠気がゆっくりとやってきた。

 雪山遭難で死ぬのって、こんな感じなのだろうか?

 寒いはずなのに、なんだか心地いいよ……。

 寒くて頭痛がするのに、なんだか幸せな気分になってくる……。

 なんだろう、この感覚……。

 もしもこれが、凍死する過程ならば、苦にならない死に方なのかもしれないなあ……。
 
つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/