第116話 森の中で朽ちてこそ、定めか……

「今回は残念だけど……、オリバー爺さんのキャビンへ行くのは諦めよう」

「うん……」

 私は無言で頷いた。

 実は、オリバー爺さんが、私たちにキャビンを見せたかったのには、特別な理由があった。

 そのキャビンというのは、ソッドハウス(土の家)と呼ばれる、いわゆる古い内陸エスキモーの人たちの家の造りなのである。

 地面を掘り下げて、そこからログを積み、屋根をつけたあと、土を乗せて、屋根全体に草の根を張らせるという建て方だ。

 いわゆる、家の半分が土に埋まっていて、屋根にも大地のような草地が乗っかっている状態だ。

 土を利用することで、夏は涼しく、冬は薪の消費を抑えることができるほどの保温力をもった暖かい家になるのだという。

 突如アラスカの森の奥深くに入り込み、何も知らない若者だったオリバー爺さんに、内陸エスキモーの人たちが、その建て方を教えてくれたのだった。

 今、その内陸エスキモーたちは、石油ストーブを焚く近代的な暮らしを手に入れ、ソッドハウスに住む人も、建てようという人も少ない。

 石油の恩恵の代わりに、彼らの伝統技術が失われつつあるのだった。

 だからこそ、オリバー爺さんは、私やトーニャに、その家を見せたかったのだ。

「もしも運ぶことができるとしたら、きっとオリバー爺さんのソッドハウスは、博物館で展示保存されるようなものね……」

 と、トーニャが言った。

「このままオリバー爺さんが、都会の施設から森に戻って来られなかったら……、そのソッドハウスは朽ちてしまうね……」

「そうね……」

 そしてトーニャは、静かで穏やかな声で言った。

「朽ちて、自然に帰るのも、定めかもね……」