第116話 森の中で朽ちてこそ、定めか……
焚き火にあたると、私の体や心の緊張感が、まるで湯に入れた氷のように解けていった。
火を見ているだけで、過酷な現場から暖かい家に帰ってきたような錯覚さえ抱いた。
コタツに入って、みかんでも剥いて、テレビのチャンネルをペラペラと切り替える。
そんな何気ない日々の様子が、こういった時には、特に思い出された。
「ああ、このまま、まったりしたいなあ……」
とは言うものの、アラスカの森での野宿は、油断が禁物。
この時期の熊は、まだ冬眠中であるから、襲われる心配はないが、気をつけなければならないのは、群れをなすオオカミたちだ。
フラフラとうろついているような一匹オオカミならば、たとえ襲い掛かってきても、1対1で、なんとか私にも分があるかもしれないが、集団となると、まったく太刀打ちできない。
あっという間に引きちぎられ、食べ散らかされて、私は10数頭のオオカミの肛門から排泄物となって世に生まれ変わることになる。
まあ、その排泄物は、土となり、大地となって自然に帰っていくのだろうけれど、はっきり言って、そんな運命は、惨め極まりない。
「こんなときに、橇犬たちがいたら……」
人間よりも鋭い嗅覚と聴覚で、いち早く気配や危険を察知してくれる彼らがいるからこそ、犬橇行では、野宿も可能なのだ。